アシタ
**話は遡る***
通知を手に持ち、歩く−−−
今までひっかかったこたあねぇんだけどなあ。
そう思いながら用紙を眺める。
とりあえずは行っとかなきゃな。
このクソ忙しい時に。
ま、行っとかなきゃいけねぇんだろな。
なんともねーだろ。多分な。
「何だって?」
いま、変なこと言わなかったか?この医者。
「‥‥‥驚くのも無理はない。いままで健康だったなら尚のことだ。だけど土方さん、あなたの心臓はもう、いつ何が起こっても不思議ではない状況にあるということをまず頭にいれて欲しい」
あっちにこっちに検査へと行かされ、簡単に終わるものだと思っていた精密検査は思いのほか長く、ぐったりしてきた頃にその話。
正直、頭が回らなかった。
ビラビラとした心電図の用紙を手にした髪の長い医者が、ペン先で図を差しながら説明を長々としていり。
頷きながらも、半分も頭の中には入って来なかった。
ただわかったのは、自分の心臓が弱っているということ。
―――俺ぁ、編集者だ。仕事のストレスなんて半端ねぇし、寝不足なんて当たり前。それでも、自分でやりたくてやってる仕事だし、体を酷使してきた。
そのツケがまわってきたってことか。
24時間計測するコンパクトな心電図を体に取り付けられ病院を後にする。
それを提出して十日後やらにもっと詳しい分析がでるらしい。
「チッ、今日明日は銀時んとこいけねぇな‥‥」
こんなもんぶら下げてったら心配性のアイツんことだ、どうなんだかなんて目に見えてる。
それに、アイツといたら心電図乱れまくりだっつぅの。
首からぶら下がってるディスクサイズの四角い箱を見てププッと笑う。
んなことになったらあの医者、慌てそうだな。
なにしろ、食事中や排泄時間、睡眠時までこと細かく紙に記入しなきゃなんねぇ。
小さな乱れも見逃さないってやつだ。
勿論、セックス厳禁。
あー、さわりてぇ。
厳禁と言われれば、余計にシたくなるのが人の心理。
やべぇ、やべぇ、心臓が乱れる。我慢だ。
こうしてる間にも確実に機械が俺を記録してる。
この時何かあったのですか、なんて突っ込まれたくねぇ。
深呼吸をして、会社へ向かう。
空は、冷たい空気の中、残酷な程に澄んでいた。
心電図を提出して十日後、更なる悪い結果が待っているとはその時の俺はちっとも思っていなかった。
可能性の低い手術をして死ぬか生き残るか賭けるか。
それとも。
いつ暴発するかも知れない爆弾を抱えながらも少しでも長く生きていくか。
どちらがいい?って言われたら、お前ならどうする?
俺は後者をとった。
無理さえしなければ、このまま上手くいけるかもしれない可能性の方を。
お前に、情けない自分の体を知られないで済む方法。
心臓に負担をかけることはなるべく厳禁。
残念ながらセックスもそれに入っちまってる。
でも銀時、俺はお前の傍に少しでもいてぇんだ。
手術なんかしてわけわかんねぇうちに死んで、お前を追いてくなんて嫌だ。
だってお前、んなことになったら後追い自殺とかしそうじゃねぇか。
これは俺の考えすぎかもしんねぇけど、そうなんのは嫌だ。
俺が、居なくても大丈夫なくらいになって貰わねぇとな。
そうならないまでお前が力をつける時間が欲しい。
「ふっ‥‥くそっ‥‥」
ぼたぼたと、目からなんかが落ちて来やがる。
情けねぇ、俺の心臓。
ずっと、お前の傍にいてぇ。
お前を幸せな気持ちにしてやれんのは俺だけだっていいてぇ。
でも、叶わねぇみてぇだ。
ドンッッッと、壁に拳を叩き付ける。
「‥‥‥‥んで、‥‥‥‥なんで、俺じゃねぇんだよ‥‥!」
なんで。
銀時の傍にいれるのは俺じゃ、ダメなんだ。
神様って奴がいんなら、俺じゃあ銀時には相応しくないっていいたいのか?と叫んでやりたい。
誰にぶつけていいかわからない苛々が、どうしようも出来ずに胸に渦巻いていた。
ああ、これも負担なんだろうな。
今日だけだ。
今日だけ。
明日になったら普通の俺。
いや、銀時が俺を失っても大丈夫なような俺になる。
ごめんな。
こんなに生を欲する時が来るなんて思っちゃいなかった。
少しでも長く、お前を見ていたい。
‥‥‥‥‥銀時、愛してる。
20090930
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16000キリリクみみ♪様ありがとうございました。
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