今までも、これからも。
『副長!誕生日、おめでとうございまーす!!』
ここは、真選組屯所。
見回りをしてるとなんだかんだと小さな揉め事があり、いつもより遅く、真っ暗になってからの帰還だった。
帰ってくるなり山崎に手を引かれ、大部屋に入ると、パンパンとクラッカーが鳴り響いた。
「お〜〜トシ!やっと帰ってきたな!」
みんなの中心にいるのは近藤さんだ。満面の笑みを浮かべている。
「さあ、みんな。主役が来たんだから乾杯といこうや!!」
「おぉ−−!!」
掛け声が上がる。全く好きだなこいつらも。
飲めりゃなんでもいーんだろ。
「あ、いや、でも報告書まだ書いてないんで」
仕事を残しては後から面倒臭い。
「トシ〜〜いいじゃないか、こんな日くらい!めでたい日なんだから特別に明日にしてもいいから」
「そうですぜィ、土方さん。あんたがいないと酒の席もはじまんねェですよ。だからはやく座れよバカヤロー。」
「おいおい、総悟くん。心の声もでてるっつーの」
でも・・ま、いっか。
『こんな日くらい』に付き合っても。
「じゃ、お言葉に甘えさせてもらいます」
「よーし!じゃあ改めまして。土方十四郎くん!HAPPY BIRTHDAY!」
「HAPPY BIRTHDAY!!!」
みんなの声がはもり、本格的な宴会が始まった。
・・・そういえば、あいつ、今日は一度も見かけなかったな。
ふわふわの銀髪はいつもならすぐに目に付くはずなのに、今日に限って一度も見ることはなかった。
冷たい奴だぜ。・・・ま、あいつの事だから、俺の誕生日なんて忘れてぐーたらしてるかパチンコしてるかぐらいだろ。
酒が入ると、つい愚痴りっぽくなってるのはやっぱり日頃のストレスのせいだろうか。
でも、なんだかほったらかしなのが気に食わない。酔っ払ったせいでいつになく、イジケモードになっている自分がいた。
「あっと、いけねぇ」
総悟が思い出したように言葉を発した。
「土方さん、土方さんはもうこの辺でお開きにしてくだせェ」
「んあぁ??なんでだよ!俺の誕生日なんだから好きなだけ飲んでたってかまわねーだろうがよぅ」
「いやあ、俺ァ、土方さんが酔い潰れようとぐだぐだになろうと別にかまわねぇんですけどね。一応、ことづて頼まれたんでいっときまさァ」
そういったあと耳元に近付き小声でボソッと言った。
「部屋で待ってますよ」
誰が、とは言わなかった。総悟は知っている。
それにアイツは普通に屯所内をよくうろついている。
ふらつく足に力をいれ、近藤さんにトイレにいくと告げ、自室へとむかう。
覚えていてくれたなのだろうか。心臓の鼓動が早くなる。時刻はもうすぐ午前0時をまわる。
−−−もう、帰ったのだろうか。
真っ暗になっている室内にどうしても肩が落ちる。
遅かった・・・か。
総悟の野郎、忘れてたじゃねぇよ。
喧噪の中に戻る気力もなく、真っ暗い中を、明かりを点けようと手を探る。
「どわぁぁぁ〜〜!」
と、なにかに躓いた。
起き上がり、改めて明かりを付けると・・・銀色の男が口を開けてまるまって寝ていた。大きな猫みたいに。
安堵。
探し物を見つけた気分だ。
「おい。こんなとこに寝てんじゃねぇよ」
足でぐりぐりと背中を突き、起こす。
「んあ?あー、土方くんだあ」
寝ぼけ眼を擦りながらぽやっとした顔をしている。
そんな姿さえかわいいと思う自分はやはり病気だ。でも態度にはだしてやらない。
「なにしてんだよ、てめーは勝手に人の部屋で。何時からいたんだ」
ほんと嬉しい。でもそんなの態度にだしたら負ける気がして。ごまかそうとすればするほど怒っているような口調になる。
「今日のお昼くらいから?お前、全然帰ってこないから寝ちゃったよ。」
昼?どうりで街では見かけないはずだ。
「それで?何の用なんだ」
一応聞く。
「何の用ってあれだよ。おたくらがこの間壊したうちの玄関の修理代、払ってもらおうと思って。近藤さんに言ったら、土方君に書類作って貰えっていうし。官公庁っていうのはあれだね−、手続きが面倒臭いね」
そ、そんなことかよっ!!期待した俺が馬鹿だった!!!
あーあーどうせこいつはこんな奴だよ。期待してたおれが馬鹿なんだ。
「おまえはっ!!・・今すぐ作るからもう少しまっとけ!!」
さっきまでの期待は弾け飛び、怒りと情けない気持ちでいっぱいだ。むしろ早くここからコイツを追い出したい気分にすらなる。
文机にむかい、書類を引っ張りだし、乱暴な字で書いていく。
「ねぇ。そーいや今何時?」
のんびりした口調で聞かれると余計イライラする。机上の時計に目を走らせ、素っ気なく答える。
「11時57分だ」
「そっか」
なにがそっかだ。あと三分で誕生日も終だちくしょー。
「誕生日おめでとう。トシ」
・・・・・・・・え?
「え?」
「ぎりぎりでも間に合ってよかったよ」
「お・・まえ・・・」
「えっ?なにその顔。もしかして忘れてると思ってた?いくら銀さんでも大事なトシの誕生日忘れる訳無いでしょ」
「じゃあこの書類は」
「ああ、それ。なんか沖田くんがそうしたら土方くんの部屋にいても不思議じゃないからってさ」
「ちっ。総悟のやつ、余計な事を」
そういいながらも感謝する。
「トシ、こっちむいて」
銀時のほうを向くと、チュッとかるーくキスをされた。
「プレゼント」
「おいおい、安い贈り物だなあ」
いいながらも顔は緩んでしまう。
「だって銀さん貧乏だもーん」
「胸張っていえることかよ」
踏ん反り返ってる姿をみると、少し頭が痛くなる。いっちもこのペースに巻き込まれてしまうのだ。
「あ、今何時?」
「ああ?もう12時過ぎてるよ」
−−−誕生日も終だ。
「そっかあ。じゃあ今度はトシがキスして」
無邪気に言ってくる。
「はぁぁ?」
おいおい、それじゃプレゼントにならねぇだろ。
「あ−、あれ、あれだよ、新しいトシも俺のこと好きだよーって感じが欲しいかな、なんてね」
どこか違う方向を見ながら、それでもちらちらとこちらの反応を伺っている姿がいじらしい。なんだ。いっつも不安に思ってたのは俺だけじゃなかったのか。
意地っ張りばかりしてる俺らには珍しい、求める言葉に心が熱くなる。
「こいよ。そのかわり、キスだけで済まそうなんて簡単じゃないからな」
ニッと笑って手を伸ばす。
もちろん、銀色の恋人は手を取り俺の腕へと納まった。
新しい一日目・・・か。
いい日になりそうだ。
終
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