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「なんでテメーがここにいんだよ」


入ってきた瞬間、仏頂面でその男はそう言った。どうやら非番らしく、黒の着流しを着た、真撰組副長、土方十四郎。


「んだよ。俺がいちゃあ悪ィのかよ。あれだよ?ここは居酒屋だよ?わかってる?お前の家でも何でもないっつーの」


日頃、何かとすぐ絡んでくるコイツの態度にいい加減イライラしてた俺は、酒の勢いもあって、自分から絡んでいった。


「いったい何なんだ!俺ァ、今日ここでメシ食うのを楽しみにしてだんだ。なのになんで先にテメェがいんだよ」

「あんだとぉ!俺だってなぁ、ここお気に入りの一つなんだよ!パチンコで勝ったときゃあ、ここで一杯引っ掛けて帰るって決めてんだ。お前にどーのこーの言われる筋合いねーんだよ!!」


バン!とカウンターを叩き立ち上がる。


「まあまあ、お二方とも落ち着いて。うちの店を贔屓にしてもらって嬉しい限りですよ。さ、土方の旦那も座って、座って。夏のスタミナ新メニューもありますんで、食べてって下さいよ」

「ちっ、しゃーねぇな。親父の顔に免じて我慢してやらあ」


俺も、親父さんに言われ、もう一度腰を下ろす。
‥‥‥て、え?
なんでそこォォォォ?


「ちょっ、おま、なんでわざわざ隣座んだよ!他にも空いてるとこあんだろうがよっ」

「ほっとけよ。ここは俺の指定席なんだよ。嫌ならお前がどっかいけ」


カチーン。
何なんだよ、その言い方。
銀さん、別に嫌とか言ってないだろ?
お前が、いっつも因縁付けてくんだろうがよ。


「べっつに。銀さんは大人だからね、誰が隣に座ろうと気にしないけどね。むしろ意識してんのはオタクでしょ?なに?銀さんに気でもあるわけ?」

「ばばば馬鹿野郎っっ、んなわけねーだろ!変なコト言うんじゃねぇっ!お、親父、酒くれ、酒!」


‥‥‥あ、あれ?
ただの厭味だったんだけど。
なんでコイツ、顔赤くしてるわけ。
まさか、ね。まさか。

浮かんだ考えを振り払うかのように酒をのどに流し込んだ。


「親父ぃ、俺ももう一本ちょうだい」









「だーかーらーよぉ、多串くんはぁ、なんでいっつも銀さんに絡んでくんですかあ?」


程よくどころか、結局飲み競べのようになり、すっかり酔っ払いになってしまった。


「誰が多串くんだ!誰だよ、ソレ。つーか万事屋、お前、酒弱いだろ」

「弱くねぇっつの。こちとらお前さんが来る前から飲んでんだ。酔っ払うのがはえーのはしょうがねーだろ」


妙に冷静な態度が気にくわない。


「はいよ、ドジョウの唐揚げね。精がつくよ!」


涼しげに竹のカゴに和紙を敷いて盛りつけてある
ドジョウが置かれる。


「えー、なになにぃ?そんなに精力つけてどうするつもり?彼女にでも奉仕すんのぉ?」


真撰組の副長さんはカッコイイと女達が噂してたのを聞いたことがある。
それを思い出し、イラッときてついからかってしまう。


「うおっ!つーかそれ俺のだろ。なんでテメェが勝手に先に食べんだよ」

「いーじゃん別にぃ。俺にも精つけさせてくれよ。それに先に食べないとマヨの海に浸かっちまうだろぉ」


先に口に入れて大正解。
次の瞬間には、やっぱりドジョウは大量のマヨネーズに浸かって、溺れてるみたいだ。


「こちとらなあ、仕事で疲れてんだ。精のつくもん食べて何が悪ィんだよ」


「はい、次、う巻きね〜」


「あ!ちょ、マヨネーズまったあぁ!」


多串くんがびっくりしてる間に一かけらかっさらう。


「ん〜〜うめぇ!この出し巻き卵に巻いてある鰻。親父ィ、これ、めちゃうめぇんだけど!」


親父はにっこりと頷いた。


「‥‥お前ェにやるよ」


皿ごと目の前に黄色い塊が来た。


「えっ!マジ?意外といい奴だったんだな!」


遠慮なく頬張りながら、幸せにひたる。
あいつの顔が少し赤く見えんのは酒のせいか?


「んでよー、結局はどうなの?副長さんともなれば女の子もより取り見取りっしょ」


気分を良くした俺は、自然と言い方も優しくなる。


「んなの、いねーよ。仕事の邪魔になんだけだ」

「そうなの?じゃあ彼女はいねぇけど、ヤリたいときは相手してくれるっつー奴?」

「おめぇはっ。身も蓋もねぇような言い方すんじゃねぇよ」

「あー!やっぱりそんな感じなんだあ。っつーことは、場数踏んで結構テクニシャン?」

「さあ‥‥‥どうだろうな」


やけに大人しいアイツに酔っ払いの俺は気を回す余裕はなく、ぺらぺらと一人調子に乗って喋ってた。


「万事屋、お前ェはどうなんだ」

「あ?俺?俺はそりゃあれだよ。いつでもやりたい放題だよ‥‥‥って言いたいのは山々だがよ。なかなかもてないんだよね、これが。きっとこの髪の毛がストレートになりゃ上手くいく気がすんだけどなあ。なんか最近溜まってんなあ」


ふわふわとまとまりのない髪を指で弄りながら、ハアと溜息を吐く。


「たまってんのか」

「うん」

「んじゃ、俺が解消させてやるよ」

「う?」


意味がわからず、頭に?をのっけたまま固まっていると。


「親父、勘定。こいつのも一緒に」

「あいよ」

「ほら、行くぞ」


あれ?あれれ?
おぼつかない足取りの俺の手を握り、二人で居酒屋を後にした。


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