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9 ネムリ


土方が出ていった後も俺はパソコンを打ち続けた。

いっつも眠い頭の中はかつてない程活性化し、眠いという欲求など切れッ端も浮かんで来なかった。

カタタタ、タン。



−−−−−終わった。



後はプリントアウトして、見直しして手直ししなきゃな‥‥

あ、でもその前に一回寝といたほうがいいのか?
あと、沖田くんに連絡‥‥と。

「あ、もしもし?坂田だけど。原稿さあ、一応出来たからさ、一回、目ェ通してくんない?‥早い?んだよ、俺だってやりゃあ出来んだよ。でも最初考えてたもんと違ってるから大丈夫か確認してよ。俺ァちょっと寝てると思うから。勝手に入って来て持ってっていいから」

ある程度話してから電話を切った。データで送るのはどうも性に合わない。パッと見の相手の反応を直で見たいからてえのとかいろいろあってなるべく手渡しにしてもらってる。


「なんか疲れたな」


沖田くんが来るからと玄関の鍵を開け寝室に向かう。着替えるのも怠く、Tシャツとジーンズのまま横たわる。
枕が二つ。
抱き枕のように抱きしめると、いつも使っているシャンプーの香りと煙草の匂いがした。
なんだか苛々してきて、土方の使っている枕をベッドの外に放り投げる。

体は疲れてはいるのに、眠気は一向に襲ってこない。


‥‥‥‥薬。


ガサガサと棚の中を掻き回す。

あった。

あったのは即効性があり効き目が短い薬と効きはじめは遅いが効果が長続き出来る薬。
二つともナイロン袋に入って、奥に隠すように突っ込んであった。
眠れないときに貰った薬。

土方は‥‥薬に頼らなくて、俺に頼れって寝るまで背中撫でてくれたっけ。
でも、もうその土方もいない。

何となく捨てられずにしまっておいた薬を袋ごと持って台所へと向かう。
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、グラスに水を注ぐ。

一回に飲む量ってどのぐらいだっけ?


イインジャナイ。スキナダケノンダラ。


そうだよなあ。
どうせ効き悪いんだし。


プチン、プチン、と錠剤を次々に取り出す。
それを水で口の奥へと流し込む。


まだ、足りないかもしれない。


再び錠剤を出し水を飲む。

何だかどうでもいいような気がしてきて、その行為に夢中になり繰り返し行う。

薬がなくなりかけた時には頭の中がクラクラとしてきていた。
薬を取り出す手元もあやしくなり、シートで指を切り血が出てきた。


「あ、かい、な」


ふと思いつき、通常よりは太めの仕事用カッターを取りに行き、手首を切ってみる。


「紅い」


傷口から血が流れている。


土方が好きだと言った紅い色が目に広がっている。血を見てる自分の瞳はさらに紅くなっているのだろうか。


「‥かた‥‥ひ‥じかたぁ‥‥好きって‥好きっていってくれよぉ」


馬鹿だよな、自分から言い出したくせに。


−−−願いは叶わない。


わかってるのに。


‥‥‥この声は届かない。


血がポタポタと落ちるのもさして気にならず、寝室へと歩いた。
枕を拾い、ベッドに横たわり、胎児のように枕を抱えて丸くなる。

夢で会おう。
優しい、優しい土方の夢。
そこでゆっくりしたい。
ずっと寝ていたい。
早く会いたいよ‥‥‥
俺だけの土方‥‥‥




待っててね‥‥いま‥‥‥行くから‥‥


20090615

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