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8 サヨナラ


今まで出来なかったものが嘘のように指が進んだ。

カタカタカタタ‥‥

キーボードの音だけが響いてる室内に、違う音が鳴り響いた。

ジリリリリリィ!!!

−−−ああ、もうそんな時間か。

チラリと時計をみると7時を回っている。
音がして土方が出て来た。


「‥‥‥お、前。寝なかったのか」


昨日と同じ格好でパソコンの前に座っている俺を見て、そういった。


「続き書いてたかったから」


なるべく感情を出さない声で目を合わさないようにして呟くようにいう。
土方は‥土方は、驚いてくれただろうか。土方が来てる時に一緒に寝ないのはこれが初めて。
はっ‥‥俺もギリギリまで来て女々しいこった。


「そうか」


案の定、一言を残して土方は身仕度を整えるのに目の前から消えた。
いつも朝食は会社でとるらしいので準備はしたことがない。きっちりスーツを着込んだ土方の背中に俺は用意してた言葉を出した。


「土方ぁ、別れよ」


土方の動きはピタリと止まり、こちらを振り向いた。
なに?さすがにちょっとは反応してくれたの?っつか、瞳孔開きすぎだろ、それ。そんな驚いた顔してっと銀さん、勘違いしちゃうでしょ。やめてよね。


「な‥‥ん、だって‥‥」

「なにって。お前だってそのほうが楽でしょ。それともなんだ?ホテルがわりに使える便利な場所が無くなって残念ってかあ?ズルズルとそんな関係続けててもうぜーだろ。スッパリサッパリ切っちゃおうぜ」

「お前、何考えてんだ」


なんだか知らないが怒りのオーラを出している土方は俺に詰め寄り、襟元を掴み上げる。


「なに‥て、そのま、んま」


苦しくなり掠れた声しかでない。
なんで怒ってんの?この人。


「銀時ィ、こりゃあなんだ」


襟元を広げられ、見えたのは−−−先日沖田くんが付けていったキスマーク。


ああ、丁度いい。


「何って。見てわかんねぇのかよ。キスマークだろ」

「てめぇ‥」


ギリッと唇を噛み締めたのが見えた。
何その態度。
自分はよくても相手がしたら許せないってゆうパターン?
そんな都合のいいようにされてたまるかっての。

「前に言ったよね。相手にしてくれないとどうなるかわかんないよって。‥‥‥お前じゃもう物足りねーんだよ。俺ァ快楽に弱いからな。仕事で疲れて役にたたねぇモンなんていらねーんだよ。わかったかよ、マヨラー」

「クソッ‥‥!お前ェがこんな奴だとは思わなかったぜ」


それはこっちの台詞。


「なになに?十四郎ちゃんは俺がかわいい小説書くからって、おとなしーい去勢した飼い猫くらいにでも思ってたわけ?悪かったなあ、好きモノの野良猫でよ」


そう吐き捨て、挑戦的に睨み返してやる。
こうなったら売り言葉に買い言葉。


「‥‥‥わかったよ。別れりゃあいいんだろ。出ていきゃいいんだろ」


静かな声。

あれ。
もっといってくると思ったけど。
ハハ、やっぱお前だってそんなに気持ち残ってねーんじゃん。
こんなにさ、こんなに、別れって簡単に決まるもんなんだ。

どこか他人事のように思っている自分がいる。
土方は俺から離れ、再び、玄関へと足を向ける。
ふと見えた横顔が歪んでいたように見えたのは、俺の都合のいい思い込みだろうか。


「‥‥‥荷物は全部棄てといてくれ」


いいけど。
結構あるよ。
もったいなくね?


「土方ァ」


返事はない。


「さっきさ、『銀時』ってよんだの、どのくらいぶりか知ってる?」


答えは返ってこない。


「‥‥‥バイバイ」



バタン、と。




重い玄関のドアが閉まる音がした。






さよなら、土方。



20090609


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