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2011賀正


「おじちゃんあれ食べたーいな」



正月の特別警戒の一環で街の見回りをしてたらソイツがいた。

しかも今、だいぶ目線が下のほうから、隊服のズボンをギュッと離さないぞとばかりに握りしめてたりする。
目をクリクリキラキラとでもいった方が伝わるだろうか、そんな目で固まっている俺を見上げながら小さい子供はそう言ったのだ。



「だあァァァれがおじちゃんだゴラァァ!」


周りからみれば大人げない行動に見られそうだが、俺は額と口元が引き攣るのを感じながらちっさい奴に言葉をぶつける。


「えーこんなかわいい俺に飴の一つも買ってくれないの?お正月なのに?」

他の奴らから見たら知り合いの子供が単にねだってる姿に見えるだろう。

でも。


「なーにがかわいいだ。だいたいてめえは何で正月からんなちっちゃくて変な服まで来てやがんだよ、銀時」


そう銀時。

なにやら真っ白のもふっとしたぬいぐるみのようなものを全身に着込み、顔だけが見えている小さい子供。
銀髪に紅い瞳の子供。
どう大きくみても五才くらいの子供だけどな、俺が間違えるわけがねぇ。
小さくともコイツは銀時に違いない。


「んだよ、気付くのはえーよ。いやこれはそのなんつうかさ、友達が年の瀬に送ってきた菓子食って朝起きたらこうなってたみたいな?」


先程までキラキラさせて俺を見上げていた目は、ふいっと視線を外しいつもの光の無い死んだ魚のような目になった。

‥‥‥頬が少し赤くなってんのは俺がすぐわかったのを喜んでると思いてぇけどな。

とはいえ。


「おーまーえーはーなー、毎回毎回んなこといってて学習能力がねえのかっつうの!」


唯一肌が出ている顔の部分、ぷっくりとした頬を抓り上げる。


「ッて、ちょ、いってーよ!!!んだよ、じゃあてめえは何なんだよ。年内中に会えるとか言ってて結局顔見れたの年明けてからっつうか今偶然会ったのかよっていうくらいだったのにさ。だから俺・・・お前来ると思って家ん中独りだし甘いもんでも食って心の隙間を埋めようって家にあるもん片っ端から食ってたら結果こんなんなっちまったし、んでやっと十四郎に会えたと思ったらかわいくないとか言われる俺って・・俺って・・・」


高い幼い声で若干舌っ足らず気味に、でも懸命に発していた声が段々と小さくなっていく。
ふるふると微かに震えながら、うつむいている白くてふわふわした小動物そのままの様な銀時。前に深く下がった銀色の柔らかい髪で、その綺麗な瞳と顔を隠すようにしている。

俺は、小さい銀時に目線を合わせるためにしゃがみ込む。


「あ、いや、かわいくないとはいってねえって‥‥‥それに悪かった‥な‥さみしい思いさせて」

「んじゃさ、とーしろー俺のことどうなの?まあどうせすぐ治るとは思うけどさあ、おれ、こんなになってっけど」


ちろりと伺う様に俺の方をみる目を見たら‥‥ああ、もうダメだ。
お前の勝ちだ、銀時。


「おまえは銀時だろ?なら俺に必要なことには変わんねえよ」

「んじゃあ俺のことかわいい?変じゃない?」


んな首傾げて見てくんじゃねーよ。自分が心配になってくるだろうが。

お、俺は別に滅多に甘えてこない銀時に心臓がバクバクしているだけであって小さいからとかもふっとしてるとかふわふわ気持ち良さそうだとかんなことでこんな風になってるわけじゃねぇ。
絶対に!
そう自分を解釈しながらつまりながらも口を開く。


「か、かわ、いい」

「じゃ、だっこ。いいだろちっさいんだからよ」

「わーったよ。ほら‥‥来いよ」



ギュッ


抱き上げると思ったよりもずっと軽く、思わず強めに抱きしめた。


「あったけーな」

「うん、十四郎もな」

「あけましておめでと」

「今年もよろしくお願いしますー‥‥‥てことで。おっちゃーんそこのでっかい飴とあと全部一種類ずつ詰めてくれる?」

「あ?」


体を少し離し顔を覗き込むと、ニカッと笑いやがった。


「へへッ、ごちそうさま」

「ったくお前は‥‥‥ガキ共にもわけてやれよ」

「わかってんよーだ」




*****




「おい総悟ォ、俺ァちっと迷子の家捜しに行ってくっからあと頼んだぞ」

「ヘイヘイ。上には万事屋の旦那がさらわれないように家に帰しに行ったっていっときまさァ」

「な、なんでお前までコイツが万事屋だってわかったんだ!」

「‥‥‥。今まで自分がそこで銀時銀時騒いでてみてみりゃあその容姿してんだからわからないわけないでしょう。馬鹿だとは思ってたけどもっと馬鹿だったな土方このクソヤロウ」

「ちょ、今クソヤロウって」

「もういいからさっさとそのガキ連れてって下さいよ。んじゃ旦那、また年始の挨拶は身体が元に戻ってから伺います。俺ァそこの奴みたいに幼児趣味はないんで、大人に戻ってから」

「違うっつうの!オイ総悟ッ」


総悟はスタスタと俺らを置いて歩いて行った。


「アハハ、十四郎ロリコン?あれ?俺元に戻んないほうがいい?」

「んなわけねーだろ。さっさと帰るぞ。‥‥‥早く戻れ。アレも出来ねーだろ」


小さく言ったのに。


「何、身体目当てぇぇぇ?!」

「だから違うっつってんだろッッ」

「あそ。よーかったあ」






わざとらしくニヤニヤ笑う銀時を抱え直し万事屋へと向かう。







「十四郎」

「今度はなんだ」

「そんなに急ぐなよ。ゆっくり帰ろうぜ」






隊服でこんなでかいウサギのぬいぐるみみたいなもん抱えた俺が目立たない訳がない。
出来れば早く皆から見えないところに行きたい。
でも万事屋に着いてしまえばまたとんぼ返りに仕事は分かっている。






多分、銀時も。







「そうだな」







早足だった歩みを、ゆっくりゆっくりなものへと変える。
あたたかい体温と早めの確かな鼓動。







それを感じるくらいの速度で歩むのも悪くはない。








こんな、一年の始まり。



20100104

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