5 ライバル
先日の出来事などなかったかのような態度の沖田に連れられて、俺はパーティー会場に来ていた。
華やかな雰囲気の立食パーティー。
出版社設立何十周年やらなんやらのパーティーらしく、場所も広く、人数もそれなりに多かった。
連れて来た沖田は、挨拶してくるやらなんやらで消えてしまい、手持ち無沙汰な俺はアルコールのグラスを手に、壁際で人間観察をしていた。
−−−というより、この会場にいるであろう土方を眼で探していた。
−−−あ、いた。
ドレードマークの煙草は禁煙の為なく、招待客の間をゴリラ編集長と二人でせわしなく渡り歩いている。
黒いスーツをビシッと着こなした土方はやっぱりみとれるほどカッコイイ。
「‥‥な、旦那ってば」
ぼやぁっとしてたら、隣にいた沖田くんに気付くのが遅れた。
「あれぇ?いつの間に」
「いつの間にじゃありやせんよ。ったく。どこのタコみてぼやっとしてんでぃ」
−−−ばれちゃった?
いやいや、沖田くんに後ろめたさを感じることはないよ、俺。
ゴホン、と、ごまかすように咳ばらいをし、沖田くんに向き直る。
「んで?なに?どうしたんですかぁ?」
「あぁ、なんか編集長が旦那連れて一回りしてこいって」
「あぁ−?俺は見世物じゃねーぞコノヤロウ」
んな面倒臭せぇことしてられっかつの。
「面倒なのはわかりやすが、売れてても一応まだまだ新人の範囲内ですし、編集長の顔立ててやって下せぇ」
めったにない沖田くんの下手に出た言い方に、しょうがなく一緒に挨拶にまわることにした。
−−−したが。
ジロジロ見られたり、変な批評聞かされたり疲れるだけ。
まじ、来なきゃよかったと思った。
「あとは楽にしててくだせぇ。また帰りに送って行きやすんで」
そういって去ろうとする沖田くんを呼び止める。
「ねぇ、沖田くん」
「なんですかい?」
「‥‥‥あれ、誰」
少し先にいる眼鏡の男を指差す。
「‥‥ああ。伊東ですよ。伊東鴨太郎」
「聞いた名だな。でもなんで土方のこと、呼び捨てなんだ?あいつ、偉くなったんじゃあないの」
「気になりやすかい?」
ニヤリと、意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。
「ちょっとはね」
「まあ、今日は旦那を引きずり回したし教えてあげやしょう」
うわ、めっちゃ上から目線なんですけどぉ
「伊東は普段は違う部所にいるんですがねィ。今度合同の企画出すってんで今、一緒に仕事してるんでさァ」
「ふぅん」
「で、土方さんとは大学が一緒らしくて。なんですかねぇ?よく二人で張り合ってたらしいですんで、仲がいいというか、悪いというか。よく編集長部内でも言い合っていますがねィ」
「土方もいろいろ大変だねー」
棒読みみたいな俺の台詞。
沖田くんはため息を一つ吐き、
「俺ァ、奴は頭ばっかりキレて、嫌いですがね」
そう言って他のところに行ってしまった。
目が、どうしても土方を追いかけてしまう。
だけど、アイツは俺を見ない。
‥‥‥見ようとしていない?
伊東て奴とべったりくっついて時々はゴリラも混ざり、あっちにこっちに行っている。
なんだよ。
俺はお前にとって空気ですか?
‥‥なんなんだよ、俺。
20090604
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