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その気持ちの名も知らずに


「あっちィ‥‥」


世間様は行楽日和。
太陽が例年より勢いを増して照り付けている中、あまりの暑さに胸元に巻いてあるのスカーフを緩めるためにに思わず手がいってしまう。

今日は五月五日、子供の日。

こんな時ほどますます休めるわけがなく、攘夷浪士達のテロ行為に備えて俺達真選組は市中見回りを強化している。
先程までも何やら爆発が、とか不穏な話が持ち上がったので行ってみたが、なんのことはない、ただのガキどもが季節外れの花火で遊んでいただけだった。
無駄に終わった出動の帰り道。部下達を先に帰して歌舞伎町の見回りをすることにした。

あん?
なんでそこかって?
べべべ別に深い意味なんてねぇし!
ただ単にこの街がいろいろあるから見回りにきただけだっつうの!

‥‥‥とは言え。
俺の目は自然とあの銀髪の野郎を探しちまってる。
自分でも何がこんなに気になるのかわかりゃしねぇ。
なんだってんだ、一体。





「おっおぐっしくーん!こんちわ!」


後ろからした声に思わず身体がビクリと弾んだ。

この声、アイツだ。

適当に相手すりゃあいいことなのに、俺の足はなんでかスタスタとまるで聞こえてないかのように動いていく。
アイツを目の前にすると自分がどういう行動をとるのか全くわからない。

現に今。
逃げている。
先程までは探してたのに。


「ちょ、おい!聞こえてんだろ?無視はねぇだろ、おい!!‥‥‥待てよ!このクソマヨラー!」


流石にそれは止まるだろ。


「だああれがクソだってェェェ?ゴラァァァ!!」


睨みをきかせて振り返ったつもりなのに。


「やっぱ、ちゃんと聞こえてんじゃんかよ。やだねぇ無視なんて大人気ないんだから。そんなことすると銀さん泣いちゃうよ?」


全然泣きそうにない顔で。
というかむしろ嬉しそうな顔したアイツが‥‥‥坂田銀時がいたもんだから俺の鼓動が大きく跳ねた。

くそッ、いったいどうしたっていうんだ俺は!


「んで?一体何の用だってんだ。こちとら仕事のねぇお前と違って忙しいんだよ」

「わかってんよ。暑いし怠いし、疲れたまってんでしょ?」

「あ?ああ‥‥」


なんだ?
いつもだったらここで言い合いになってもいい筈なのに。
‥‥‥なんか企んでやがんのか?


「だからさ、はいコレ」

「な、んだよ」


目の前に差し出された大きめの水色の布に包まれた四角い物体。


「甘味だよ。今日は子供の日でしょ?神楽や新八達と柏餅作ったんだよ。上手く出来たと思うから食べてみて。疲れた時は甘いものっていうでしょ」


甘味?


「なんで俺に。‥‥‥‥悪いけど甘ぇもんは苦手だから遠慮しとく」


なんだかわからねぇが悪巧みでも企んでるとしか思えねぇ。例えばしびれ薬が入ってるとか。
そういや万事屋はあの桂と繋がってるとかなんとかいう話もあったな。
そうか。桂の野郎、俺を動けなくさせといてなにかしら動く気だな。

万事屋が俺に甘味をくれる理由に頭を働かせ、結果に行き着いた俺は適当に理由つけて断った。


「副長さんさ、もしかして餅ん中に何か入ってるとか疑ってんの?ひどい土方くん!!俺が土方くんの為に頑張って作ったってのに!!!」


そうデカイ声張り上げて両目を覆って泣き真似なんかするもんだから、真似だとわかってはいるけど焦っちまう。

それに、今コイツ『土方くんの為に作った』ていったか?


「おい。取りあえずそのふざけた泣き真似はよせ」

「あ。ばれた?」

「わかるわ!!」

「なーんだ、つまんない」

「なッ‥‥ま、まあいい。ゴホン。それで?今、俺に作ったとかいったか?」


タバコに火を付けながら横目で見ると、やっぱり楽しげにニヤついてる万事屋が目に入った。


「いったよ」

「俺はお前にんなもん貰う義理はねぇ。疑うのは当然だろ」

「俺にはあるよ、あげる意味。だって今日土方くんのお誕生日でしょ」

「ん?ああ‥‥‥そういえば」


多忙さにすっかり忘れていた。毎年この時期は忙しさに拍車をかけてるもんだから、気が付いたら日付が変わってるなんざ当たり前の日常だった。


「なんでんなことテメェが知ってんだよ」

「この間沖田くんにたまたま聞いたんですぅ。てぇことで。ハイ、これは銀さんからのプレゼントな」


タバコを持ってない手を取られ、手の平の上にポンと置かれる。
返すなよとばかりに、その場を去る万事屋に声を掛ける。


「一応、貰っとく」


ギュッと箱が落ちてかないように握りしめた。


「一応てなんだよ一応って!まあ、いっぱい作りすぎちゃって余ったからおすそ分けなー!」


悪戯な笑みをして、振り向いた。


「てめ、」


『さっきは俺のために作ったっていったろうが!!』と叫ぼうとして、なんだかその言葉自体が気恥ずかしいもののようがして、喉の奥に飲み込んだ。










屯所に帰って、報告書を書くからしばらく誰も近寄るなと皆に言い置き、自室に入った。
貰ってきたものを文机の上に置き、ハンカチを解きシンプルな紙ケースの蓋を開けると柏餅が二つ入っていた。
柏の葉の良い香りが鼻を刺激する。葉に包まれているのはピンク色の餅と間に挟まれたあんこと苺。


「変わってんな‥‥」


普通の柏餅でさえ一度しか食べたことがないのに変わり種ときたもんだ。
恐る恐るパクリと口に入れると、自分には充分甘いが確かに従来のに比べれば甘さをかなり控えてある味だった。


「こりゃあ他のヤツだったら物足りねぇだろ」


自分の為に、と言ったのは嘘じゃないかもしれない。
思わず顔が笑ってしまう。


一個目をペろりとたいらげ、二個目を手に取ると、底に小さく小さく書いてあった。






『誕生日おめでとう』






そんなに甘くなかったはずなのに、二個目は最初食べたやつより甘く感じた。






甘くて甘くて、ちょっと甘酸っぱい。






今の気持ちにピッタリの味のような気がした。







初めて味わうこの気持ちの名を。







知るのはもう少し後のこと。



20100505
→あとがき♪

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あきゅろす。
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