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2010バレンタイン


「副長ー、副長宛てのチョコこんなに届きましたよ。どうします?」


段ボールを抱えて部屋にやってきた山崎が、中身を見せながらそう言った。


「んな誰が寄越したかもわかんねぇもん、どうしたこうしたもあるか。捨てとけ」

「ええっ!本気で言ってんですか?バレンタインチョコですよ?」


大袈裟にそういう山崎に冷めた視線を送ってやる。


「だいたいなあ、誰が送ってきたかもわかんねぇもんなんて怪しいブツだろうが。毒でも盛られてた日にゃあ俺ぁ死んじまうぞ。ていうかその前に俺ァ甘ぇもん嫌いだっつうの。くだらねぇことで仕事の邪魔すんな山崎」


書類に目を戻しつつそう言うと、山崎はヤレヤレと言う感じで腰をあげる。


「じゃあこれみんな貰って分けちゃいますよー、後から返してって言われても返しませんからね」

「ああ、好きにしろ」


その時。
ソレが目に留まった。


「山崎、ちょっと待て」


部屋を出て行こうとした山崎を引き留め、箱の中から一つ取り出す。


「ああそれ。いかにも怪しいと思いませんか?調べます?」

「いや、いい」

「もしかして誰が差出人かわかってんですか」

「‥‥‥まあな。もういいから早く行け」

「誰からの‥‥うわっ、ちょっと副長っ副長ってば!」


まだ何か言い出しそうな山崎を部屋から押し出し、手の中のもの見る。
ただのアルミホイルに包まれただけの手の平サイズのそれ。
ガサガサとアルミホイルをひろげると、何の飾り気もない手作りっぽいシンプルなハート形のチョコレートが出てきた。


「ったく、甘ぇのは苦手だっつうのによ」


こんなことすんのはお前だろ。

口に入れて噛むと、バリッといい音をたててチョコが割れる。


「あ、あまっ、これ普通のより甘いだろ」


激甘なチョコをそれでももう一口と口に入れると、何やら紙が飛び出ているのに気づく。
破れないように引っ張り出して開くと。






『バカ』
と一言。




いや、よくみるとチョコの染みでよく見えなくなっている端っこのほうに『愛』の一文字。


「なにやってんだアイツ」


思わず笑ってしまう。
作ってる姿を思い浮かべながら、甘い甘いチョコを少しずつ味わって全部食べた。


プルルルル


「はい土方」

『あー副長さん?おれおれ、わかる?』

「どこぞの詐欺師かてめぇは」

『わかってんじゃん』

「あ、あー、えーとな、美味かった。ありがとな」

『なんのこと』

「チョコだよチョコ!とぼけんじゃねぇよ恥ずかしいだろ!」

『ああ、あれね。よくわかったね俺だって』

「そりゃあ愛の力だ」

『‥‥‥土方くん、熱でもあんの』

「普通だ」

『そ、そう。結構恥ずかしい人だったんだね。‥‥でもあれ、マジで食べたの』

「なんだ?俺がたべちゃ悪いのかよ。まさか違う奴にやる予定だったとかいうんじゃねぇだろうな」

『いやあ、悪いことはないけどねぇ、実はアレさ、この間ケンカした時に作ったやつだからさあ、ちょっと薬盛っちゃったんだよね』

「薬ィィ?どんなやつだ」

『あのね‥‥入れちゃったんだよね、嘘か本当かわかんないけど‥‥‥惚れ薬』

「はあ???」

『食べた後さ、初めて話をした人を好きになるんだって』


だから珍しく電話なんて掛けてきやがったのか。
ったく、しょうがねぇ奴だな。


「なら安心しろ、俺にゃあもう好きな奴がいるからいいんだよ」

『え?だ、だれ』


焦る電話口の声。


「銀時ってゆう頭クルクルで死んだ魚の目ぇした銀髪のやつ」

『‥‥‥‥‥‥ふーん。モテモテ副長さんに好かれるなんて幸せモンだね、そいつ』

「どうだかな」

『そうなんですぅ』

「今日、後で行くから」

『ん。‥‥じゃあもう切るな』

「ああ」



ツー、ツー、


切れた受話器の向こうのアイツが。
嬉しそうな顔をしてるといい、なんて思った。

早く、逢いたい。




20100214


→あとがき

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