万誕2010
そばにいたい、なんてこの口から言えるわけがねぇ。
今日までのお前も、
明日からのお前も、
日付が変わるその瞬間も。
何一つ変わるわけじゃないとは分かってはいても、ただコイツの祝いの日を本当は一緒に過ごしたかった。
でもそれは無理なこと。
表の仕事に裏の仕事までこなし、夕べは久方振りに艦へと帰ってきた万斉の寝顔を見ながらそう思う。風呂から上がった万斉はどう見ても顔色悪く、さっさと寝ろと布団の中へ押し込んだ。
多分、お前は起きたらまたすぐに仕事に出なけりゃいけねぇんだろうがよ。
『晋助不足』といって抱き着いてきた昨日。
そんな時は大概表の仕事に煮詰まってる時で、少し顔出ししてはまたすぐ仕事に戻っていく。
忙しいのもわかってる。
一緒にいれないのもわかってる。
でもやっぱり。
『おめでとう』と一番にいうのは自分でありたい。
「誕生日、おめでとう」
寝ている万斉に、小さく小さく囁いた。
誰よりも早く言いたくて。
当日会えない寂しさを奥にしまって。
「まだ早いでござるよ」
声に驚けばフッと笑われる。閉じていた瞳はいつの間にか開いて、こちらを見ていた。
「‥‥‥いつから起きてやがった」
小さく舌打ちしながら、気恥ずかしさに布団から出ようとすると逆に引き寄せられ、その腕の中に抱き込まれる。
「晋助が‥‥あまりにも熱い眼差しで見つめるから」
耳元で話す言葉は寝起き独特の低音の掠れた声で。不覚にもアノ行為の時を思い出しぞくりとしたものが走ってしまう。
「起きたんなら離せ。‥‥‥もう仕事だろ、飯でも‥ふあッ」
首筋を舐められそのままキツク吸われる。
「晋助が食べたい」
いつの間にか体勢が変わり、万斉は俺を見下ろしてい。
「でもお前、仕事‥‥」
「仕事ならいましておるよ」
「は?」
「鬼兵隊総督様を喜ばせるという裏の仕事」
「何わけわかんねぇことを‥‥退け」
そう言っても一向に退く気配などなく、俺の頭の中には沢山の疑問符が。
「晋助が喜ぶことが、拙者への一番のプレゼントでござる。だから晋助。今日も明日も明後日も、ずっと一緒にいよう」
今日も、明日も、明後日‥‥‥も?
「‥‥‥仕事は」
「片付けたでござるよ。流石に昨日は限界だったでござるがそれも今日からの休みの為故。だから、祝いの言葉は明日ゆっくりと頂くでござるよ。無論、それ以外も」
「んだよ、それ以外って。俺ァ別に特別何も用意してねぇぞ」
万斉の言葉に簡単に喜べるほど素直じゃない自分。
本当はすっげー嬉しいけど。
「拙者には晋助がいれば充分‥‥ではござらんな、拙者のマンションでゆっくりとお相手してもらおうか」
ニヤリと笑う姿に思わず笑ってしまう。
いちいち言うことがエロジジィだなったくよ。
でもそんなとこも全部引っくるめて。
「好き」
小さく小さく呟いた。
「拙者もでござる」
どんなに小さな声でも。
どんなに小さな仕種も。
全部分かってくれるお前が好きだ。
だから、生まれて来た日に感謝を込めて。
「ありがとう、万斉」
20100520
→あとがき
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