1 ヒヤリとしたコンクリートの冷たさが頬に気持ちがいい。 学校には来たものの、なんとなく授業を受ける気にもなれず屋上に来た。 ‥‥‥‥が。 いつも開いてるはずの扉は鍵がかかっているらしくガチャガチャと音をたてるだけで一向に開く様子はない。 ガンッと蹴り付け、扉前の畳み一畳分のスペースにゴロリと横になる。砂埃も何も気にならず、そのまま俯せ。 授業開始のチャイムは先程鳴っていた。 それじゃなくてもこの冬空の、雨も降り出しそうな天気の中。誰が好き好んでこんなところに来るものか。 現に扉から入る隙間風は 俺自身とコンクリートの壁や床を冷やし、どんどん熱を奪っていった。 全部、冷たくなってしまえばいい。 冷たくなって、声も出なくなって、動かなくなってしまえばいい。 だって。 誰も、俺を必要としていない。 仕事なのか何なのかは知らないが、滅多に家に寄り付かない父。 そんな父親のせいで精神を病み、俺を虐待し続けた母親。そのせいで左目は傷付きもう光は灯らない。成長してもう力では敵わないと知った母は、今度は俺の存在を無視することに落ち着いている。 体裁だけで成り立っている家族。だけど、そこから抜け出せない。 誰も俺を必要としてないのに‥‥‥。 あいつも。 高校になって初めて出来た、友達‥‥‥の、筈だった。 そのままでいればよかったのに。 最初はただの、触れ合い。 それが行き過ぎてしまったのはどちらからだったかよく思い出せない。初めはキスをして。その後は熱を吐き出すようになり、この間とうとう最後までやってしまった。 普通は。 普通の恋人同士なら、二人の仲がより深まった瞬間だろう。 でも俺達は、恋人ではない。 ただ成り行きで行為を重ねただけ。 ましてや、男同士。 行為が終わった後、あいつから出てきたのは。 「すまない、晋助」 ていう言葉だった。 なにが? なんで謝るんだ? 訳のわからないまま別れ、それから二週間。 連絡も、会うことも、話すこともない。 同級生とはいえ、端と端のクラスでは顔を合わすこともなかった。 やっぱり俺は必要じゃない人間。 誰にも。 高三の二学期も終わりともなると、新しい世界に入って行く準備としていらないものを切り捨てる時もあるだろ。 俺はきっとそのうちの一つ。 抱いてくれたのは最後だから? もう、縋れないお前の温かい腕。 それならいっそ‥‥‥冷たい冷たい底に沈んでしまいたい。 全身、冷えて動かなくなって、いっそ何も無くしてしまえばいい。 冷えて手足が痺れていく感触が心地好く、そっと瞳を閉じた。 [次へ#] [戻る] |