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想思華 3

***

用意した菊の花束を肩に担ぎ、月と星だけが煌めく静かな甲板へとやって来た。
夜風が頬に心地良い。
盆も終わりともなれば、日中は暑くとも日が暮れるとともに格段に暑さも落ち着く。

万斉が怪我をしてから数日がたった。幸い、出血量のわりには傷自体は酷いこともなく不幸中の幸いというところだ。すっかりと落ち着き、いつもの日常を取り戻した隊の中で、俺は一つの考えに悩まされていた。

このまま、平行線でいいのか?
いつ、何があるかわからない身だからこそ、先に踏み出したほうがいいんじゃねぇのか。

心が、揺れる−−−。








花びらをちぎっては、暗い海へと放ることを繰り返していると。


「晋助」


悩みの種が姿を現した。
いつもの服装ではなく、黒に近い濃い灰色の着流し。
サングラスも耳に付けているやつもない。

「万斉。動けんのか‥‥‥具合はどうなんだよ」

「あとは傷が完全に塞がるのを待つだけでござるよ。処置が良かったのだろう。心配かけて、すまぬ」

「心配なんかしてねぇつってんだろ」

「ああ‥‥‥そうでござったな。何をしている?花が、可哀相なことになっているように見えるが」

不思議そうに覗きこんでくる。

「いいんだよ、これで。こんな花一本ずつじゃあ、間に合わねぇ。花びら一枚ずつでも足りねぇくらいだが、手向けにと思ってな」

「珍しいでござるな。晋助が他の者まで弔うとは」


含みのある物言いにジロリと睨むが、遮るもののない瞳にぶちあたり、結局そらしてしまう。


「俺の周りにいる奴ぁ皆死んでっちまってる。生き残ってる奴らは相当しぶとい奴らだけだ。それでも俺ぁその屍を踏み潰して行くしか生きてく方法を知らねぇ。‥‥‥おめぇたちがそいつらに足ぃ引っ張られねぇように、たまには弔っとかねぇとな」


最後の花をばらまき、残った茎を海に投げ入れる。


「まあ、ただの気まぐれだ」


波に飲み込まれていく花たちを見届け、向き直ろうとすると、背中ごと抱きしめられた。


「万、斉?」


「すまぬ、晋助。余計な心配かけさせて」

「ああ?おめぇは人の話聞いてんのか?心配なんてしてねーって何回言わせりゃいいんだよ。とりあえず、この腕、離せ」


あまりにも近い。
心臓がバクバクしてくるのが自分で恥ずかしい。
絡まる腕。
肩口に埋められた顔。
首にかかる髪。
耳元近くで囁かれる低音の声。
全てに体が反応したかのように、敏感になる。


「いやだ」


呟いた声と同時に腕にはますます力が込められた。


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あきゅろす。
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