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想思華 2

万斉は‥‥ただの仲間だ。
気晴らしにゴロゴロとしたり、よく二人で過ごす時間は多いかもしれない。
でも、それだけ。
それだけだ。

そう自分自身に言い聞かせながらも、川辺を歩いた時に見た表情がどうも頭から離れない。

なんであんな寂しい顔すんだよ。
なんで俺の傍にいるのに辛そうなんだよ。

なんで‥‥‥俺ァ、こんなにお前が愛しく思うんだ。

その答えはわかっている。
わかってはいるが、自分の歩む道を行くにはそんな感情など前に転がっていては邪魔だ。
だからずっと見て見ぬフリをしてきたのに。
今、それが大きく膨らみ、胸を焦がす程の炎となっている。


「万斉‥‥」


口に出せば、余計に。
早く会いたい、顔を見て抱きしめられたい。
想えば想うほど、欲求は高まるばかり。

心は通じ合っていないというに。

紅い花を思い出し、自嘲気味に手に顔を埋めた。

なあ、万斉。
お前は‥‥‥どんな気持ちであの花を見てたんだ?






バタバタバタ、と急に艦内が騒がしくなる。

何かあったか?

自分の考えたことにドキリと心臓が波を立てる。
今日、天人と繋がり幕府を腐らせ、闇賭博で私腹を肥やしている高官を暗殺する作戦を出している。
そのまま利益も入って来る予定だ。
作戦を取り仕切っているのは−−−河上万斉。

まさか、あの万斉に限って。

嫌な考えを振り払い、煙管を吸い込み、煙を吐く。


「晋助様ァ!!」


来島が襖の向こうから慌てた様子で声をかけてくる。


「どうした」


落ち着いた声を作りながらも、心臓は早鐘を打つ。
まさか‥‥‥


「か、河上が、負傷して帰って来ましたっ。出血がかなり多く、今全力で治療中ッス!!」


嫌な予感程よく当たる。
その、まさかの内容に血の気が一気に下がった気がした。


「今、行く」


それだけしか答えられなかった。







治療をしている部屋に入ると、血の匂いと消毒液やらなんやらの匂いでムッとした空気が立ち込めていた。

その中に、万斉の姿が。

上半身の衣服を取り去り、医者が治療を施している。
腹部をやられたのか、その周囲が血に塗れている。


「どうだ」

「銃で至近距離から撃たれた様ですが、弾も綺麗に抜けていますし何とかなるかと思います。ただ、ここに戻るまでの出血量が多いので多少ショック状態ですが、輸血しながら何とかやります」

「そうか」

多少はホッとしながらも心臓はまだおさまさない。


「し‥‥ん‥す、け‥」


呼ばれて顔を向けると、万斉がこちらに手を伸ばしていた。
手を取り額に浮かんでいる汗を拭ってやる。


「ったく。おめぇは何、呆けてやがったんだ。んな白い顔して帰ってくんじゃねぇよ」


憎まれ口も声が震える。


「フッ‥‥‥そう‥いう、晋助、顔色、悪い‥‥す‥こし‥は、心配‥して、くれた?」

「たいしたことねぇ作戦で、手負いで帰ってくる奴の心配なんかするわけねぇだろうがよ」

「す‥まぬ。拙者‥」

「うっせぇ。黙れ。言い訳なら後でたっぷり聞いてやっから、今はおとなしくしておけ」


いつもならあるはずのサングラスの代わりに、手の平を目元に当て休むよう促す。

手が温かいものに濡れたのは気のせいにしておく。

しばらくすると、薬が効いてきたのかゆっくりとした寝息に変わった。

それを見届けてから、あとは医者に任せ、部屋を出た。


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あきゅろす。
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