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想思華 1

紅い花が目に痛い。
地獄花だとか死人花とか呼ばれるこの花。
盆の季節に咲くにはまだ早いはずなのに、昨今の気象のずれのせいか見事に群生して咲いている。


「これはまた、大量でござるな。川辺りが真っ赤に見える」


隣を歩く万斉が感嘆したように呟いた。


「気持ち悪ィ‥‥」

「そうでござるか?拙者、結構好きでござるよ」

「おめぇも大概、物好きだな。ありゃあ昔から墓に埋める花だぜ」

「それでも」

「まあ、俺にゃあ似合いかもな」


紅く放射状に咲く彼岸花。

夕暮れに咲く花を見てると、川の側にあるこの道が黄泉の世界へと続いているのではないかという錯覚に陥ってくる。

数多の命を奪ってきた自分の行き先は、亡者共の待ち構える地獄だろう。
紅い花の隙間から、今にも亡霊が手をのばして、自分を引きずりこもうとしているのではないか、と錯覚さえ覚える逢魔刻。

思わず、たかが想像なのにぶるりと体が震えてしまったことに舌打ちをする。


「どうかしたでござるか?」

「いや、なんでもねぇよ」

「そう」


そういいながらも、心を読んだかのように腕が腰に回ってき、その体に引き寄せられる。


「なんだよ。女じゃあるめぇし、んなことすんじゃねぇよ」


口ではたしなめながらも、体は万斉に引き寄せられたまま。


「いや、何だか晋助が夕闇に溶けてしまいそうな気がして、少々不安になってしまった」

「んなこたぁ、あるわけねぇだろ。気のせいだ、気のせい」


最後は自分にも言い聞かせていたのかもしてない。


「そうでござるな」


万斉が、くすりと笑った。
俺は、頭の中を見透かされてるのではないかと目を逸らす。


「そういえば、晋助この花の別名、知ってるでござるか?」

「あ?あれだろ、幽霊花とか、地獄花とか。ろくな名前がついてやしねぇじゃねぇか」

「まあ、それもあるが‥‥‥隣の国では『想思華』といわれているらしい」

「そうし?なんだそりゃ」

「晋助、よく見て。花はあるけど、葉がないであろう? これはこの花が、花が咲いている時は葉がなく、葉があるときは花は終わってるからでござるよ。同時に出ることはないから『葉は花を思い、花は葉を思う』という意味がある。‥‥お互い思い合ってはいるのに重なることのない、切ない花でござるな」

「‥‥‥そうだな」

「まあ、ちょっとした話でござるよ」


そう言って花を見つめる万斉の横顔のほうが、切ない。

お前は。
今、何を思ってる?


「さ、晋助。もうだいぶ闇も降りてきた。早く行こう」

「ああ、そうだな」


促され、先へと進み出す。



何事も見なかったように。



万斉に見えた昏い影など見なかったことにして。


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あきゅろす。
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