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真昼に見る夢 2

「何か良いものでもあったでござるか」


目の前を歩いていた晋助が、ショーウインドーを眺めて止まっていたので、自然と追いつく。
晋助の視線の先にはケースの中に飾られた着物が。


「ほう。これはなかなかいい着物でござるな」


目の前には二つの着物。
一つは赤茶の地に金で大きく鳥が描かれている。長い尻尾の部分は所々が刺繍のように浮き出ており、手の込んだものだと一目でわかる。
もう一つは黒地に赤い花や白、青や緑という雑多な色達を上手く全体に散らしてあり、派手といえば派手なのだが、いかにも晋助に似合いそうな着物だ。


「いらっしゃっいませ。そちらどちらも加賀友禅の作品。一点物で少々値は張りますがよい物ですよ」


中から店主らしき初老の店主が出て来て愛想よく声をかけてきた。


「うー‥‥」

「さ、よかったら中に入ってお召しになってみたらどうでしょう」

「い、いや、それはいい」


確かに。
脱いでは困ることがある。


「しん、ゴ、ゴホン。‥‥あー、着物をあてて見るだけでもよいのではないか」

「そ、そうだな」


危ない危ない。もう少しで名を呼んでしまうところだった。


「それではどうぞ中へ。今準備しますから。さっ、奥方様どうぞ」

「お、奥方って‥」


口をパクパクさせている晋助の手をとり店主に促されままに店の中に入ることにした。



肩からかけて見るだけでも、その着物達は晋助のために作られたのでは、と思うほどに良く似合っていた。
赤茶のほうは凜とした中にも色香が漂う雰囲気であるし、黒地のほうは妖艶な空気を感じさせ、本来の濡羽色の黒髪を思うと余計に似合うと思わせるものであった。
実際、晋助も、鏡にあてたり生地をよく見ては悩んでいる様子。


「主人、この着物、二つとも貰おう」

「へい。ありがとうございます」


にこやかに笑みを浮かべ、着物を持って準備をしに奥に引っ込む。


「おい、いいのかよ。あれ結構高いぞ」


驚き顔の晋助。
そんなこといわれては余計に与えたくなるでござろう?


「いいでござるよ。主が本気で気に入ったのならば出す価値もあるというもの。それに、服を贈るというのは男子の楽しみでござるよ」

「親父くせぇな、おい。脱がす楽しみが‥‥とかいうんじゃねぇぞ。下心見え見えだな、お前」


そういいながらも嬉しそうな晋助の顔。
その顔を見たくてしてるのだから良い。
晋助が喜ぶならばよいのだ。





それからもあっちへ行きこっちへ行き、市中を歩き回った。
結局その他に買ったのは、晋助の部屋に似合いそうな黒に金箔で描かかれている、龍が印象的な大振りの花瓶くらい。
あとはぶらぶらして腹が減ったという晋助と店で飯を食べて。
座っていても、股は開くは脚は大きく組むはの晋助を時々嗜めながら。

まるで‥‥‥‥‥まるで、本当にデートでもしているような、夢のような時間。
日頃の緊張感や焦燥、血の匂い。それらを全て忘れて、穏やかな空気が流れていた。


「晋助」


数歩先を行く晋助を呼び留め、肘を差し出す。


「何だよ、ソレ」


不思議そうな顔をしてその腕を見つめてくる。


「せっかくだから腕を組んで歩くでござるよ」

「はあ?」


疑問符をつけながらも、その顔はみるみるうちに朱色に染まってゆく。


「かわいい」

「ば、馬鹿野郎っ男にそんなこと言うなっつってんだろ」

「おや。今は主はおなごでござろ?」

「うっ‥‥‥と、とにかく、こんな格好してるからって、んなことが出来るか!」

「照れ屋さんでござるな。ではこれくらいは赦して欲しい。拙者の今日の楽しみに」


晋助の指を己の指と絡み合わせ、近くに引き寄せる。


「どっちもあんまかわんねーだろうが」

「いやいや、だいぶ違うでござるよ。こっちは拙者が求めて握っているだけのこと。‥‥まるで手が片思いでごさるな」


今なら堂々とくっついてくれるかも、と思っていただけに、何となく寂しげな言葉になってしまう。


んなこたねーよ

「ん?なにかいったか?」

「片思いなんかじゃねーつってんだよ!さ、次行くぞ、次!」


そう言ってギュッと握り返された手。

繋がる手を引かれたのは自分。

手が痛いくらいに握り締め、頬を染め、隣を歩いていくのは。

かわいい、拙者の想い人。
思わず、頬に軽くキス。


「っ、おま、ひひ人前で、なんつーことすんだよ」

「大丈夫、大丈夫。ただの仲の良いカップルにしか見えないでござるよ。さ、行こう」


真っ赤な顔して手を握り返すかわいい恋人。



片思い、
片思い、
いつの間ににやら両想い。



「好き」じゃ足りない愛しい君へ



「愛してる」





20090809



→あとがき

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あきゅろす。
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