真昼に見る夢 1
「なんっかこう、イマイチピンとこねぇんだよなあ〜」
ぶつくさいいながら先を歩くのはいつもとは違う格好の晋助。
淡い碧の地に色とりどりの薄い色合いの朝顔が咲いている夏らしい柄の着物。
たまにはこんな色合いの着物も似合う。来島殿の見立ても中々でござるな。
つい、頬が緩みがち。
ただ、もうちょっとしおらしく歩いてくれればいいものを‥‥‥袂に手を入れザカザカと歩く姿は、実に男っぷりが良く、どこぞの危ない道のお姉さんに見えているかも。
そう。
お姉さん。
「オイ万斉!おめぇはまだ笑ってんじゃねぇだろうな!!」
そう言って振り返ったのは、腰ほどまである薄茶の髪を結わえもせずに無造作に垂らし、長めの前髪で顔の半分を隠している、キツイ目をした女‥‥‥‥‥のような、晋助。
丁寧に、目元の強調を重視した化粧に、キラキラ光るものまで唇に塗ってある。
「いやいや、笑ってなどおらん」
「どこが!その歪んだ口元なんとかしろ!!だからこんな格好すんのやだったんだよ」
拗ねたようにしている晋助も、またかわいい。
「それは‥、晋助が物欲に負けたからでござろう?拙者と二人で昼に歩くのは少々目立ちすぎるからな。拙者これでも以外と顔が知れてる。まあ、晋助も違う意味ではな」
「わかってらぁ」
チッ、と舌打ちをしてまた先を歩き出す。
その姿にやはりクスリと笑いが零れてしまう。
***少し前***
「晋助、もうすぐ誕生日でござろう?何か欲しいものがあるなら用意するでござるよ」
晋助の部屋でいつものように過ごしながらの一場面。
「あぁ?んないきなりいわれても思いつかねぇよ」
「では一緒に買い物にでもいくでござるか?たまには。拙者、当日は仕事であるから今からでもよいのなら」
「お前にしちゃあ、いい案だな。ちょうど暇してるところだから行くか」
背中から抱え込んでる晋助も同意をする。
「さて。とあっては、この昼間から二人でうろつくには少々危険。晋助、ちょっと変装してはくれぬか」
「はあ?面倒くせえな。このまんまじゃいけねぇのかよ」
「買い物ともなると人目に付きやすい。裏の取引でという手もあるが、やはり品揃えがあるのは表の店。せっかくの誕生日なのだから好きなものを見てまわりたいであろう?」
「ま、まあな」
首を捻って考え込む姿はまるで無垢な子供のよう。
「それならば、早速来島殿にも協力してもらうとしよう。待っておれ、晋助」
そんなこんなで、来島殿の手で今、変身中。
なにやら時々、奇声が聞こえる気がするが‥‥まあ、任せておけば大丈夫であろう。
「ジャーン!出来たッスよ!!」
襖が開き、来島殿がすこぶる笑顔で顔を出した。
「出来たでござるか。晋助は?」
「ほら、晋助様、こっちこっち」
押されるようにして出てきたのは長い茶髪の女‥‥‥‥の格好をした晋助だった。
「晋、す、け??」
「ほれ見ろ。どう見たって変に決まってるだろうがっ」
「ちーがうっすよ!万斉は晋助様が綺麗なんてぼーっとしてるだけッス!!そうッスよね!」
そんなに迫力のある声で言われると、そうでなくともウンといわざるを得ない。実際、呆けていたのだからいいのだが。
「あ、ああ」
「えっとッスね、今日のポイントわあ、まず茶髪。晋助様は黒髪短髪のイメージがありますからそれを変えてみたッス!これだけでもだいぶ違いますけど、今日はゆっくり出歩くっていうことで、念のため用心でお化粧して女の子になってもらいました!アイラインとマスカラたっぷり目にして口元には薄いピンクのグロスで出来上がり!!着物も薄い色合いで。あ、ちゃんと胸にも邪魔にならない程度に詰め物してあります」
来島殿が楽しそうに長々と説明する間も、所在無げに視線を迷わせている晋助。
「やっぱり可笑しいだろ」
それを気にしているのか。
「そんなことはない。準備が出来たなら行くでござる。せっかくの時間が勿体ない」
「絶対バレない自信、あるッス!楽しんで来て下さい!!」
そうして、得意満面の笑みを浮かべた来島殿に見送られ、船を後にしたのであった。
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