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1 君がいない朝


「万‥斉っ、も‥無理‥‥出、ない」

「拙者はまだまだふれていたい。もっと感じて、晋助」


そうのたまったアイツ。
日付が変わるとともに始まった行為は、「祝い」という名目がついてる分、いつもより快感を引き出す行為が長く、その精を搾り取るかのように続き、最後には頭のなかがわけわからないくらい乱れて、記憶は途切れた。






嗅ぎなれない香りに目を覚ますと、すぐ近くに紫の幾重にも重なった花びらが見えた。

なんだ?花?
‥‥‥ああ、いないんだったか。


万斉に聞こうと思い、ぬくもりを探すが不在に気付く。
朝早くから仕事があって今日中に間に合わないかもといわれ、日を跨いで一番に過ごした誕生日。
ぼーっとした頭で暫く花を見つめていたが、ゆっくりと体を起こすことにする。


「つッ‥‥‥」


途端にまだ残っている残滓が足の間を伝う。
あれだけやられると体が怠い。おまけにまだ後ろに何か挟まっているような感覚がして、つい思い出して一人顔を赤く染めてしまう。

やり過ぎなんだよ、馬鹿。

とはいっても気持ちいいことばかりで、酷くはされていないぶん、動けないことはなかった。怠さは否めないが。

重い身体を叱咤し今度こそ起き上がると、目に映るは、花、花、花。
自分の布団のまわりに、先程の八重の花びらを持った手に乗るほどの紫の花が敷き詰めるように置いてある。

見渡すと部屋に置いた、万斉に買わせた九谷の花瓶にも花が。
樹木になる花なのだろうか、枝に葉や花がつき、凜とした姿で活けてある。


「クク、こんなことする奴ぁ、万斉しかいねぇなぁ」


半ば呆れながらも、粋な仕事に感心してしまう。
取りあえず風呂に入ろうと部屋の外に出たら、来島を見つけたので声をかける。


「オイ、風呂に入りてぇけど、すぐ入れるか」

「晋助様!大丈夫ッス!河上から聞いてたんで準備ばっちりッス!‥‥お花、めちゃ綺麗スよね!晋助様にとってもお似合いッス!!河上もたまにはいい仕事するッスね」


花?ああ、あの花のことか。


「ありゃあ、やっぱり万斉の仕業か。‥‥‥あの花、何の花か知ってっか」

「これは木槿ですよ。む・く・げ。なんか晋助様の誕生花の一つらしいっすよ!!庭木に咲く花らしくて、花屋に無いって探し回ってたッス。ほんとに似合ってます!」


やけにニコニコとしている来島に適当に相槌を打ち、風呂場に向かうと、来島の言っていた意味がようやくわかった。

−−−−−−アイツッ!

風呂場に写っている自分の頭には、大振りなさっきの花が器用にピンで一輪留められていた。

『これは木槿ですよ』
『とってもお似合いッス』

やっと来島に感じた違和感に納得がいく。
花を頭につけたまんま、艦内をふらふらしてたってぇわけか。
どうりで他の奴らも態度が変な訳だ。いつもならキッチリ挨拶してくるのに目を逸らしたり必要以上にニヤついてた気がしてくる。


俺を笑いモンにする気かよ!ったく。


勢いよく頭の花をとったものの、捨て置くにはなんとなく惜しく、洗面台の上にそっとのせる。


どんな顔してこれつけてたんだか。


そう思うとなんだか笑えてきた。
着物を脱ぐと、見えない場所にはついているが、そこかしこに朱い情事の跡が。
その一つをなぞりながら、側にいない寂しさを感じる。仕事だから、しょうがない、と思いをふりきりながら風呂に入ることにした。


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