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6 和解


「いつから」


結局は問い詰められることになった。


「医者、呼んだ日から」

「どのくらい見えぬのだ」

「その時による。微かに見えるてるときもあるし、たまに全然見えない時もある」

「何故拙者に言わぬ。何かあったらどうするつもりでござるか」


だっていえねぇよ。お前が原因だからだなんて。


「‥‥‥時間経てば治るようなこと言ってた。お前ぇ、仕事だし‥‥‥‥‥それに怒ってんだろ」

「確かに拙者の態度が悪かったのは認めるが、それとこれとは別であろう!晋助がこんな状態でもし何かあったら、拙者、悔やんでも悔やみ切れぬ!!」


そういって俺は万斉の腕の中。
万斉‥‥‥それは本当?
今日はあの鬱陶しい甘い匂いがしない。
久々に万斉の腕に包まれ、目を閉じる。
あれ?
でも‥‥微かに香るこの匂い‥‥‥


「万斉、誰を斬ってきた」


万斉からする血の匂い。


「たいしたことではござらんよ。それより晋助?時間が経てば、といっておったが本当に見えるようになるのか」

「疲れからきてるらしいから、休んどきゃあ見えるようになんだろ」


俺はそれらしく聞こえるようにわざと軽く呟いた。


「それはまた曖昧な‥‥‥では拙者、目が見えるようになるまで側にいよう」


万斉の手が両頬を包む。
まるで何もないときの様に優しく触れる長い指。
温もりをもっと感じれるように、俺は瞳を閉じる。
ゆっくりと指が頬を撫で、少し上を向かされる。
口づけされるか、と思った時、脳裏に浮かぶはあの時の光景。


「やっめろっ!今はそんな気分じゃねぇ」


両手を頬から引きはがす。


「どうした」

「気分じゃねぇっつてんだろ」

「何故」


頭に浮かんだ光景を振り払うかの様に、手を目にあてる。しつこく食い下がってくる万斉もうざかった。


「何故、晋助は拙者を離そうとするのだ。誰か‥‥他に気になる奴でもできたのか?それとも、拙者のことが嫌になったか」

「そんなっ」


そんなことはない、という言葉を出したいが上手く出てこない。
何でそんな冷たい声でいうんだよ。
あの女には、あの女には甘い声で話してるくせに。
鼻の奥がツーンと痛くなり、目に涙がたまる。


「だとしても、 拙者は決して離れぬがな」


そういって顎を捕われ、無理にでもしようとしてる唇にガチリと噛み付く。


「痛ッッ、晋助‥‥‥そんなに拙者のことが嫌いになったでござるか」


溜め息混ざりの声がする。
唇には錆びた鉄の味が広がる。
何だよ、万斉の嘘つき。
俺だけとかいっときながら他にも手出してんじゃねーぞ。
なんだよ、お前。


「‥‥‥じゃねえよ」

「なに?」

「他の奴にもした唇で俺に口づけしてんじゃねぇつってんだよ!この馬鹿!!」


口にした途端、涙が目から溢れてきた。
畜生。どれもこれも万斉のせいだ!!


「し、しんすけ??他の奴にも‥‥って、拙者そんなことはしていない」

「んだあ?俺ぁしっかりみたぞ。人前で堂々と女とキスしてただろうがよ。あのお陰で目は見えなくなるわ、こちとらいい迷惑なんだよ!」

「えっ?目が見えないの
が拙者のせいってどうゆう??」

「万斉があの女といちゃついてっからだろ。だいたいしたことをしてねーなんて嘘つくんじゃねぇよ」


もう、一度いってしまったものはしょうがない。
おまけに『していない』等というものだから、完全に頭が沸騰していた。


「女‥‥‥ああ、あの女のことでござるか」

「そうだ。お前、あの女に惚れでもしたか」


気になって、気になって。
考えてたことを勢いに任せて吐露してしまう。

万斉の沈黙が長い−−−。
図星だったのだろうか。 言ったことを後悔する。
いや、でもいつかはわかることだ。


「ばんさ」
ハハハハハッと大きな笑い声が響いた。


「そんなわけないでござろう。あんな性格の悪い女、頼まれても無理でござる」

「で、でもお前電話でニコニコしながら話してだだろ」


万斉があまりにも笑い飛ばすもんだから、 ムキになってかえす。


「ああ、あれか?あれは晋助がどう思ってるのか試したくてわざとでござるよ」

「わざっとって!」

「でもあの会話を聞いて 待ち合わせの場所にわざわざ出向いて来たということは、気になってきたのであろう?」


そういえば、コイツ、やけに細かく場所のこと言ってたな。
‥‥‥ってことは俺、まんまとコイツの策に嵌まったのか。
スゲー‥‥‥なんか、悔しい。
そんな簡単な策に嵌まるなんて悔し過ぎる。


「ち、ちげぇよ。あれはたまたま銀時のところに行こうとして通り掛かったらお前が見えただけだ」

「ほう‥‥‥白夜叉のところにか。何をしに行くところだったのだ。拙者が留守にしていることをいいことに逢い引きか?」


あ、の。
表情はわからないけど、何か黒いオーラ出てんの見えんだけど。
ああ、もういいや。
これ以上こんがらがるくらいなら正直に話したほうがまだまし。


「冗談だ。まんまとお前にのせられて、あそこに行った。あれ?‥‥‥てぇことはお前ぇ、キスしてたのもわざとか?」


ここで本気といわれてもひくが、わざと見せ付けるためにしたのであれば、それはそれで許せない。


「いや、晋助、それは違う!晋助が潔癖なのを知っているのに、そんなことを拙者がするわけがないっ。もしかしたら見ているかもと思ってるのに」


形勢逆転。
今度は万斉が焦っている。


「んじゃあ、なんだよ」

「あれはあの女がいきなり!手を伸ばして来るものだから、取りあえずは抱きしめるくらいは見せてやろうと思いはしたが、ああ来るとは。すまなかった」

「でも‥‥‥その後も仲良くどっか行ったじゃねぇか」


思い出すと、苦しくて、声が震える。


「晋助?‥‥‥もしや、妬いてくれておるのか」


下を向いている俺の頭は、万斉に抱えこまれ、頭をゆっくり撫でられる。


「うっせぇ」


どうしても素直になれない自分。


「かわいい、晋助。大丈夫でござるよ。拙者はとうに晋助しか目に入っておらぬ。あの後は、仕事の電話が入ったフリをして置き去りにした。それに‥‥‥あの女はもういない」

「っ、おまえっ」


残っていた血の匂いはまさか‥‥


「当たり前であろう。拙者は晋助のモノであるというに、あんな不届きなことをする雑音など、途切れてしまえばよい。人がおったからしなかったが、本来ならば即座に斬り捨てるところだ」


人斬り、の顔が垣間見える。


「斬るのは簡単だが、情報は聞き出せたんかよ」

「そんなものはとっくでござるよ」

「‥‥‥どうやって」

「芸能界入りの話しをしたらすぐに。脅してもよかったのだが、ま、方法はいくらでもあるということ。調子にのったことをせねば命も落とすことはなかったかもしれん。ま、晋助の心配するようなことはなにもない」


何だよ。
俺一人空回ってたっていうんかよ。
こんな‥‥嫌な気持ちいっぱいになって。
自然と眉間にシワが寄る。


「万斉の、バカ」

「そうだな。拙者、馬鹿でござる。命を受けたときは少々混乱してしまって、晋助をイジメすぎたらしい」


そっと瞼に優しく唇がふれた。
ふれたところからポロリ涙がこぼれる。


「すまない。‥‥‥でも妬いた晋助を見るのは初めてだから、正直、嬉しい」


そんなことをいう万斉の頭を、グーでバコッと殴ってやった。


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あきゅろす。
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