3 観察 来てしまった。 何時もの派手な着物ではなく、ごくごく落ち着いた普通の着流しを身に纏い、笠を被り目立たないようにしてきたつもり。 広場は思っているより広く、遮るものがなかったので、離れたところから様子を伺うことにした。 何やってんだ、俺。 いてもたってもいられず出て来てしまった自分に、小さくため息をつく。 おっと、今はそれよりも万斉だ。 視線を巡らすと、柱のようにたっている時計の下に、万斉が腕を組んで寄り掛かってるのが見えた。 −−−いた。 周りにいる女達がチラチラと視線を浴びせながら噂しているのが、遠くからだとよく見える。 くそっ、万斉はお前らの見世物じゃねーんだよ。 イライラがまた沸き起こってきた。 やっぱりくるんじゃなかったと踵を返したとき−−−。 「つんぽさまぁぁ〜〜〜!」 わざと周囲に聞かせているのではないかと思う、甲高い声が広場に響いた。 帰りかけた足を止め、もう一度物陰からのぞき込むと‥‥‥見えたのは最悪な状況。 「なっっっ!!」 細い、華奢な白い手は万斉の首に絡み付き、キス、をしていた。 すぐには離れたものの、照れたような万斉がなだめているのをみて、まわりの音が何も聞こえなくなり、体の感覚が消えた。 内臓が比重を増したように重く感じ、体の熱が冷めていくのを感じる。 身動き出来ないままに、目だけが万斉達を自然と追ってしまう。 明るい茶髪の目鼻立ちのくっきりした女が、まわりの女達を優越感のある目で見渡し、甘えた仕種で万斉の腕に絡み付いて歩いていくのが見える。 万斉は‥‥‥向こうを向いていてどんな表情をしているか見えない。 その姿はだんだんと小さくなり、見えなくなっても、俺はそこから動くことは出来なかった。 それからどうやって帰っのかは覚えていない。 気が付いた時には自室に、いた。 脳裏に焼き付いた万斉と 女の姿か離れない。 行かなきゃよかった。 見なきゃよかった。 ミタクナイ ミタクナイ ミタクナイ 自分以外に甘い顔をする万斉なんて。 あの手で、唇で、他の女に愛を囁くのだろうか。 ‥‥‥‥抱いたのだろうか。 命令なんて、糞くらえ、だ。 自分で出した命がこんなに重くのしかかるとは思わなかった。 「やべぇな‥‥俺、お前のことすげぇ好きかも‥‥‥」 薄い三日月を見ながら同じ空の下にいる万斉を想う。 でも、もう遅いか。 嫉妬と絶望に苛まれながら、潰れるまで酒を喰らい横になった。 翌日、起きたとき、一瞬まだ夜かと思った。 何故って。 俺の残された右目は、目を開けても何も映し出すことは無かったから−−−−−。 [*前へ][次へ#] [戻る] |