2 報告
一日、一日が長く感じる。
脳裏に浮かぶは万斉の冷たい顔。
あいつは、今頃例の女といちゃつてんのか、とか。
余計なことばかりが頭をぐるぐる巡る。
万斉からの連絡は、まだない。
いつもなら帰らずとも定期的に報告が入るのに、今回はそれすらない。
不安が不安を呼び、食事さえ喉を通らず、酒ばかり飲んでは気を紛らすことにしていた−−−−。
「晋助様、河上が帰って来てるッス」
不意に来島が顔を出して教えてくれる。
まだ怒ってんのか。
いつもなら真っ先に俺のところに来るはずなのに。
しょうがねーか。
好きな奴に、他の女とこに行けって言われりゃ嫌ンなるわな。
自嘲気味に笑う。
「‥‥晋助様?大丈夫ッスか?」
来島が心配そうにこちらを見ている。
「何でもねぇよ。万斉に首尾を聞きたいから部屋来るようにと伝えろ」
「は、はい!」
きっと来島には俺と万斉の仲がこじれたくらいのことは知っているんだろう。緊張した顔でバタバタと走って言った。
「失礼する」
そういって入って来た万斉からは、嗅いだことのない甘い匂いがした。
相変わらずの態度で、距離をとって正座をして止まっている。
「連絡も無いようだったが、コトは進んでんのか」
「上々でござる。あの女は身持ちが固い方ではないので、拙者が声をかければすぐにものってきた」
楽しそうに語る万斉に、甘く漂う香りに、胃がムカムカしてくる。
「じゃあ情報は聞き出せたのか」
「否、気を焦って感づかれでもしてはいけないのでな。少しずつ取り込んでいる。ここへは仕事の書類を取りに寄っただけのこと」
プルルルル‥
口を開こうとしたとき、機械音が鳴り響いた。
万斉は胸元から携帯電話を取り出し、俺に手だけで合図し通話ボタンを押した。
「もしもし。おー、おのう殿。ちゃんと覚えているでござるよ。5時に歌舞伎町公園広場の時計台の前でござろう?早く会いたいのに忘れるわけはないではないか」
なんだお前、その甘い声に優しい顔。俺には冷たい癖にその女にはそんなに優しいのか?
まさか‥‥ミイラとりがミイラに、なんてこたあねぇよな。
ねぇよな、万斉。
俺がそんな考えに捕われている間にも万斉は楽しそうに話しをしていた。
「‥‥では待ってるでござるよ」
そう言って携帯を閉じた。
「随分と仲良くなってるみてーじゃねーか」
違う。
こんなことをいいたいわけじゃねーのに。
「言ったでござろう。首尾は上々だと。それに思ってたよりはかわいい女子であったからな。相手をするにもなかなかと楽しい」
「タラタラしてねーで、サッサと済ませろ」
そう言うのが精一杯で。
万斉から視線を外し、窓の外を見やる。
「では拙者、約束があるのでこれにて失礼する。−−−−食事をあまりとってないと来島殿がぼやいていたぞ。この猛暑に体調を崩しでもしたら何かあった時に困るのは我々だ。しっかりと飯を食うがよい」
そう言い残して、万斉は行ってしまった。
食いたくねーもんは食いたくねーんだよ。
うるせーな。最後まで嫌味な奴だ。
『5時に広場の時計台の前』
その言葉が脳裏から消えなかった。
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