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かさなる願い 2


「晋助、入ってもいいでござるか」


何時もは遠慮なく入って来るのに、襖も開けずに外で伺いをたてている。


「入ってくればいいだろ」

「失礼する」


スーッと襖が開き、静かに万斉が中に入ってきた。


「あ、あの、晋助?」

「何だ」

「怒ってるでござるか?」


文机から目を話し、チラリと入り口に座っている万斉を見る。
いつもはふてぶてしいのに、何だかかわいく見える。
あーやべ。俺もそろそろ末期症状か?


「別に」

「本当に?」

「お前ェがあんな変なの書かなきゃな」


たまには虐めてやらなきゃな。


「やはり怒ってるでござるか‥‥しかしあれは全部拙者の夢故。それも嫌でござったか」


ったく。だからバカ万斉って言われるんだよ。


「ったく。あんな目立つとこに猥褻文ヒラヒラいっぱい飾りやがって。俺ァ、総督だぞ。上に立つ者がそれ読んだ奴らに欲の入った目で見られてたまるかっつーの。歩く猥褻物か俺は。お前はそんな目で俺が見られても平気なのかよ」

「せ、拙者は決してそんなつもりでやったのではないっ!そんな目で晋助を見る奴等、即座に切り捨てるでござる!!」

「切り捨てる前にんなもん飾んじゃねーよ」

「すまなかった。‥‥拙者、少々浮かれすぎてたようでござる。配慮が足りなかった」


声色小さく、シュンとしてうなだれている姿を見ると、もういいかという気分になってくる。


「だいたいよぉ、万斉。俺の見たところ、お前の望みは実現しようと思えば出来るもんばっかじゃねぇか」

「え?!やっていいでござるか??」


‥‥‥コイツ。
なんつー楽しそうな顔してんだよ。


「ま、まあ‥‥‥気が向けばな」


拳を握りしめ鼻の穴を膨らまし、興奮してる姿を見ると、ちょっと言ったことを後悔する。


「なあ万斉、あん中でお前ェの1番の望みは何だったんだ?」


大量に書かれた望みの中の唯一のもの。


「そんなの決まっている。『生涯を晋助と共に』生きることでござるよ」


そういうと、いつの間にやら近くに来ていた万斉にフリと抱きしめられる。


「ん、わかった。‥‥じゃあコレ、飾って来い。一枚だけまともなんがあったからとっといた。一回はちぎったから俺のコヨリに一緒に通してあるけどな」


もし、変な答えを言ったのだったら出すつもりはなかった。
しかし、コイツはいつも大事なとこでは欲しい言葉をちゃんとくれる。


万斉は赤と紫の重なった短冊を不思議そうに手に取る。ぱらりとめくり、下にある短冊をしばらく凝視してたが、満面の笑みになる。

バカ。喜びすぎだろ。見てるこっちが恥ずかしくなるっつーの。


「晋助、キス、してい?」

「勝手にしろよ」


途端に降りてくる、キス。
最初は啄むように。徐々に深くなる愛しくなるようなキス。
長い口付けがやっと離れたころには下肢に充分すぎるほど熱が溜まっていた。
そろそろとのびて来た手を思いっきりつねってやる。


「イタッ」

「何でもすぐやり過ぎなんだよ、てめーは。とりあえずソレ、飾ってこいよ。来島達も待ってんだろ」

「しかし‥」


万斉も自分の下肢を見て困ったようにしている。
すぐサカリすぎなんだよ。‥‥‥ま、俺もだけど。


「待ってっから、とっとと行ってこい!」

「わかったでござる!!すぐ戻って来る」


短冊を握りしめ、早足で部屋をでて行った。

−−−わかりやすい奴。

自然と笑みが零れてしまう。
短冊に書いたのは、たった三文字の『一緒に』という言葉。
願いは一緒。
それ以上はない。
戦いに身を置くものであるからこそ、難しさもわかっている。
ならば、星に願って見るのもまた一興。

ゴロリと畳に仰向けに横になると、ガラリと戸が開いた。
まだ手に短冊を持ったままの万斉がいる。


「どうかしたのか」

「晋助‥‥さっきの話しだが。まずはメイドさんになっては貰えぬか?服ならある」


びらりと広げられた、ヒラヒラがいっぱいついた大きめのミニのメイド服。


‥‥‥‥げ。準備良すぎる、コイツ。


「いいから早く行ってこい!!!」


側にある座布団を投げ付けたが、閉められた襖にあたり、むなしく落下した。


やべ。俺、この先身がもつんかな。
『生涯』 だからな。
あんなこと、こんなこと、やられちまうんかな。
あいつ、間違えなく変態だし。
しゃーねー、付き合ってやるか。
空にも願いをかけるわけだしな。


ま、変なコトは気が向いたらにするけど。




傍にいるのはこれからずっと。






共にいれるよう、今宵の空に願おうか。








どうか願いが叶いますように。








20090709




→あとがき


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