かさなる願い
「晋助様ぁ!!来て下さいっ」
「なんだ。準備できたのか」
「ばっちりッス」
また子に背中を押され甲板まで出ると、色とりどりの飾りを付けた大きな笹が、目の前に現れた。
「なかなか綺麗じゃねぇか。よくこんな大きな笹見つけてきたな」
「武市先輩と一緒に探して来たッス! どうせ飾るならドーーーンと大きなの飾りたいッスから!」
満面の笑みで話す来島の頭を撫でる。
「来島、よくやった。武市もな」
「はい!!!」
「いえ、私は持っていく自信がないからといったのですが、また子さんがどうしてもというものですから。まあ、こうして見ると苦労した介はありますけどね」
自分の二倍以上ある笹に、満足げに頷いて見上げてみる。
やっぱり、祭は派手なほうがいいに決まっている。
「来島、酒の手配は出来てんのか」
「それもばっちりッス!晋助様の為に美味しい冷酒、用意したッス!」
「今宵は何十年ぶりかの満月の七夕らしいぜ。天気もいいし、うめぇ酒が飲めそうだな」
「そうッスね!夜になるのが楽しみっす!あ、晋助様もこれ、書いて下さいね!1番見やすいところに飾りますから」
渡されたのは紫の短冊。
「お、おう」
っつっても、何書きゃいーんだろ?
日頃の疲れを晴らすために、七夕の宴会をたてたのは自分だが、いざ『願いごと』と渡されると、どうしてよいのかわからない。
自分のしたいことはあるが、それは行動であって、天に願うことではない。
‥‥‥ちょっと他の奴らの、見てみるか。
低い位置にぶら下がっている短冊達を見ようと回り込んだとき、ソレが見えた。
「‥‥なんだ?これ?」
Tメートルほどの小さな笹に、大きい笹の三倍はあろうかという短冊が、びっしりと飾ってあり、笹の葉が見えなくなる程になっている。
「おい。いってぇ、こりゃなんだ?」
「拙者専用でござるよ」
来島に聞いたつもりが、背後から別の声が聞こえて来た。
「‥‥‥万斉」
やべ。なんか嫌な予感がする。
専用って‥‥‥この、短冊全部?
「晋助様。見ないほうがいいッスよ!変態が移ったら大変ッス!」
「また子殿、変態とはひどいでござるな。拙者は晋助への愛を込めて空に願っているというに」
二人のやり取りを聞いていると、ますます不安になってくる。
そっと笹に近づくと、短冊を手に取り読んでみる。
『晋助にメイドコスプレをしてもらいたい』
‥‥‥‥‥っっ!!!なんだこりゃあ!!!!!
ぶちっと引っ張って短冊を笹から取り、足で踏み付ける。
嫌な予感的中。
他のも見ると。
『晋助におねだりしてほしい』
『晋助がもっと声を出して甘えますように』
『晋助の〇〇を〇〇したい』
‥‥‥‥‥‥‥‥。
限りなく続くような怪しい短冊の数々。
顔が熱くなるのを感じながら、ブチブチブチブチと全部笹から外し、その全てを足蹴にしてやった。
「あ−−−!何をするっ晋助っ。せっかくの拙者の短冊!!」
「テメーはヨコシマな願いが多すぎんだよ!バカ万斉!!」
「そうっスよ!!」
「何を言う。人間とは欲望が尽きぬものでござるよ。それに付け加え拙者の愛のをプラスすると尚、到底書ききれぬものになるでござる」
‥‥‥付き合いきれねぇ。
いや、もとよりこいつには付いてってるつもりないけど。
「おい、来島!」
「はいっ!」
「これ、全部ゴミに出せ。今すぐだ」
これとはもちろん、俺の足元に散乱している紙屑。
「わかったッス!!今すぐゴミに出します!」
「えっ?!それ、全部拙者の願い事‥」
「早く出せ!ゴミにしてさっさと焼却しちまえ!!」
俺と来島のやり取りを聞いて、なにやら言ってる男が一人いるが、無視無視!!
しょげている万斉を放置し、踵を返す。
ふと、足元に落ちている赤い短冊に目が止まった。
「どうかしたんすか」
「いや‥‥‥なんでもない」
そっとそれを拾い、着物袂に忍ばせる。
全く。
どーしよーもねー奴。
チラリと万斉を盗み見る。
口元に浮かぶ笑みを堪えながら、部屋への通路を戻ることにした。
「武市先輩、なんか、晋助様、機嫌よくなってなかったッスか?」
「んー、どうでしょうねぇ。でも、万斉さん、貴方後で必ず謝りに行ってくださいねぇ。せっかくの楽しみが暗い雰囲気になるのは私はゴメンです」
「拙者は何も悪いことはしてはおらん。ただ晋助への愛を‥」
「それがキモイって言ってるんス!絶対行って謝ったほうがいいッス!」
ビシッと指をさして言われる。
「うっ‥わ、わかったでござるよ。後でとは言わず今からいってくるでござる」
後を追いかけるように艦内の方へと踏み出した。
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