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黒い太陽、白い月




俺の胸に頭を寄せ抱き着いてくる銀兄はいつもより小さく見えた。
少し奮えている身体。
なあ、銀兄。
銀兄の大切な人を俺のせいで亡くしたことに変わりはないんだよ。
俺の顔より下にある銀髪の頭を両腕で抱きしめる。


「あの。俺、銀兄の傍にずっといるから。先生の代わりは無理かもだけど、銀兄の為になんでもするから」


中坊の俺にうまいこと慰めの言葉なんて見つかるはずがなく。本当に、銀兄の傍にいたいと願い、必死にそう言っていた。目の奥や頭の中が傷のせいでガンガンと痛みを発していたが、銀兄の痛みに比べればちっぽけなことだと思った。


「晋助、お前はいいコだな。俺と一緒にいてくれんの?本当に?」


顔を上げずにゆっくりと低い声がした。


「ああ‥‥いるし、なんでもする」

「わかったよ、晋助。俺と一緒にいてくれな」

「ん‥‥」


そのままの体勢でどれだけいたのだろう。
捜しに来た看護師に俺は病室に連れていかれ、その後は病院で銀兄を見ることはなかった。焼き付いてるのは項垂れている銀兄の姿。

先生を殺した奴は死んだことにびびって自首したらしい。そいつらの所属してた族は、壊滅したと聞いた。
‥‥‥ただ、銀兄はそれには一切関わってないという話を仲間の情報で聞いた。まあ、銀兄も顔は広いし、先生も沢山の弟子に慕われていたから誰がやったかなんてわからない。
入院中そんな話しを端々聞きながらもどかしい思いをしていた。

早く銀兄に会いたい。

でも思ったより目に付いた傷は酷く、長期の療養を必要とした上に、片目を失ってしまった。
ようやく退院出来た頃には‥‥‥

銀兄は何処かに行ってしまった後だった。

チームの上の奴らに聞いてもわからないの一点ばり。
捜しても行方はわからず。
ぽっかりと心に開いた穴をどうしていいかわからずにいた俺がいた。


『俺と一緒にいてくれな』


そう言ったのに。
自分の前から消えてしまった。

銀兄がいなくなるから悪いんだ。
『俺以外はダメ』と言った銀兄の言葉に逆らうかのように次から次へと違う相手と寝た。ただし、自分が女のように見られるのもまたムカつくので喧嘩ばかりしてたら自然と強くなっていた。

おかけでいつの間にやら狂暴で下半身に節操のない、俺が出来上がってた。
それでもまだ、心の穴は埋まらない気がする。

なあ銀兄、どこにいっちまったんだ?

わからないまま年月だけが過ぎて行く。








高校の入学式の日。
空は快晴なのに、春特有の風がとても強い一日だった。

いつもと変わらない日々が続くだろうと思っていたが、風は何かを予兆していたのか。


校門から玄関へと向かう途中、新しい制服のはずなのに学ランのボタンが一つ外れ、コロコロと転がっていった。
ムカつくのでそのまま放っておこうと歩きだした時、肩を叩かれた。


「このボタン、主のでござろう」


やけに古風な話し方。
ツンツンに逆立てた髪の毛。おまけに入学式からグラサン。
背が俺よりかなり大きいのは気に入らないが。
面白そうな奴を見つけた、と思った。


「ああ、悪ィな。お前も一年か?その割にはでけぇな」

「でかいというほどでもないでこざるよ」

「嫌味かそれ」

「いや、そんなつもりはないでござる。まあ、髪の毛の分余計に大きくは見えているかもしれぬな」


格好のわりにはいたって真面目に答えるそいつが面白くて気に入った。


「俺は高杉晋助ってぇんだ。お前名は?」

「河上万斉でござる」

「万斉?万斉かあ。覚えやすい名だな。それにお前によく似合ってる」

「高杉晋助もいい名だ」



『新入生の皆さんは受付を早く済ませてくださあい』


玄関のほうで教師らしい奴が叫んでいる。


「早く行ったほうがよいでござるな」

「そうみてぇだな」


そういいながらも歩幅はゆっくり。
隣同士に並んで歩く。


こうして、俺の高校生活は河上万斉との出会いからはじまった。











20091202


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あきゅろす。
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