黒い太陽、白い月
3
「お久しぶりです、先生」
「晋助。大きくなりましたね」
「‥‥‥まあ」
帰るタイミングが少し遅かったらしい。
松陽先生につかまってしまった。
「どうかしたのですか」
「あー‥‥、ちょっと勉強わからないところ銀兄に教えて貰ってたんです。来週テストだし」
咄嗟に出たのはそんな言葉。
「そうかですか。最近、すっかり見かけることが少なかったので会えて嬉しいですね」
「俺も、嬉しいです」
これは本当。
道場に行かなくなってから何となく合わせる顔がなく、避けてはいたがこうして何事も無かったように話しかけられると嬉しい。
「元気そうでよかったですよ。剣道は?部活かなんかでやってたりするのですか?」
「いいえ。今は何も‥」
「そうですか。それは残念ですね。晋助の振るう姿はなかなかに勇ましく好きだったのですが」
先生があんまりにも残念そうな顔をするからつい口から出てしまった。
「まあ、またする機会があったらやってみたいとは思ってます」
「それはいい!晋助、道具は貸してあげるから今週末にでも少し私と手合わせしてみるのはどうでしょう」
「え、今週末?」
先生と手合わせなんてなかなか出来るもんじゃない。やってみたいがまた急な話だ。
それに今週末といえば、集会で市内を銀兄のバイクの後ろに乗って流す予定。
「あ、いや、その日は‥‥」
「いいんじゃない。たまには健康的な汗かいてきなよ、晋助。‥‥‥勉強ばかりじゃなくてさ」
話し声を聞き付けて降りてきたのか、銀兄の声が後ろからした。
含みのある言い方にドキリとする。
「ほら、銀時もああ言っていることだし」
チラリと銀兄に視線を送ってもニッコリ笑って頷くだけ。これ、集会も休めってことだよな。
銀兄は先生の喜ぶことが優先に決まっている。
「わかりました。じゃあ土曜に」
「皆が帰ってからのほうが晋助も気を使わなくていいと思いますから、八時半頃にでも。近いとはいえ夜間ですから気をつけて下さいね」
嬉しそうに先生が笑う。
「子供じゃないんですから大丈夫です」
「銀時も一緒にどうですか?」
「いや、俺は友達と約束あるからやめとくわ」
「そうですか」
友達と約束ね。
「それより晋助、お前早く帰らないとっていってただろ。大丈夫なのか?」
ん?
一瞬、なんのことかと思ったが、銀兄が機転をきかせてくれたのだとわかり、わざと慌てたフリをする。
「あ、ああ、そうだった。俺行かねぇと」
「おやおや。呼び止めてしまって悪かったね」
「じゃあな、晋助」
早く帰れ、と言われた気がした。
「お邪魔しました」
寂しさを感じながらもそう言い置き、その場を後にした。
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