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追悼の歯車
□1










 "―本当に
 私の願いを叶えてくれる――?"









暗い深い闇のナカ



怖い恐い闇のナカ





『アヴィス』と言う名の
監獄に堕ち



『アリス』と言う名の
少女に出逢い



再び闇の底へ堕ちた私は



一体




―どうなったのだろうか










    "Abyss"










"殺してやる!!"



"殺してやる!!"



"私はあいつを許さない…"





「こっちです!!
 早く来てください!!」





"殺してやる"



"殺してやる"





「人が血だらけで
 倒れて居るんです!!」




"必ずこの手で殺してやる!!"



"この眼を奪った
 アヴィスの意志を"





「危険です!」




"私は絶対許さない!!"





「お待ちください――…」





"殺してやる!!"





「――シャロン様!!!」





―……こど、も…?


二人の、子供。




私は、

生きているのか




アヴィスという

あの牢獄から

抜け出したのか







私は、一体――――



















Episode1

 ―始まりの音―



















「…あいつか?
 この前屋敷に
 担ぎ込まれて来たって奴は」

「あぁ、死にかけのところを、
 シャロン様が発見したそうだぞ」

「貴族という訳でもないんだろう?
 そんな怪しい男を
 客人としてもてなすのか?」











―コンコン。

1つの部屋の扉がノックされると、静かにその扉が開かれる。



「…失礼、します」



扉の奥から恐る恐る出てきたのは、眼鏡をかけ、洋服をきっちりと着詰めている、レイム=ルネットという少年。


レイムが視線を向ける先は、部屋の雰囲気を作る様な大きな窓。

その縁に座るのは、刺々しい空気を纏った白き青年。


青年の名前は、ケビン=レグナード。


その青年は、入ってきた彼に一切目を向けようともせず、唯、外に目を向け虚ろに眺めている。



「…大丈夫、ですか」

「…………」



レイムがそっと訊ねるが、ケビンは黙ったまま何も答えない。

一応来た目的の内容だけを、ケビンに伝える。



「……シェリー様が、呼んでいました。
 何やら、話したい事があるそう…です」

「…………」

「…それだけ、です」



一切目も合わせようとしない彼に、レイムは小さな溜め息を漏らす。

諦めた様に部屋を出ようと扉へ進むと、
ぽた、ぽた、と小さな水音がした。


何かと思い振り返れば、
ケビンは自らの瞳の上に巻かれている包帯の間から、中を抉る様に指を動かしていた。


その残酷な様子を見て血相を変えたレイムは、駆け足でケビンに近寄る。



「―ッちょっ…
 何してるんですかっ…!!」

「うるさい…ッ…!!」



ケビンを制止しようとした手はぱしん、という音を立てて払われ、その力の勢いでレイムは床に転んでしまった。



「ッ……痛……」

「私に―………な…」

「……?」



レイムは打った場所を擦りながら、ケビンが呟いた言葉に耳を傾ける。



「私に触るな…近寄るな……」

「………え……」

「私を…
 ッ…私を見るな…――ッ!!」



―それは、全ての存在を拒絶するような、自分の存在すら拒絶しているような、悲痛な叫びだった。


こんなにも刺々しい空気を放ち、誰も寄せ付けない様にしている彼の態度は、まるで何かに怯えているようにも取れた。



「…貴方、は……―」



―ふと、部屋の扉がなると、
ゆっくりと開かれる。


開かれた扉から出てきたのは、長い髪をきっちりと後ろで束ね、紫のドレスを美しく着飾った女性だった。



「失礼しますね、こんにちは」

「―!! し…シェリー様!!」



名は、シェリー=レインズワースという。


その後ろから出てきたのは、シェリーと同じ髪型の小さな少女、シャロン=レインズワース。
シェリーの愛娘であるらしい。



「大丈夫かしら、レイムさん」



シェリーは柔らかな微笑みを浮かべながらしゃがみ込み、そっと彼の眼鏡を拾い渡す。



「あ…はい、シェリー様。
 ありがとうございます」



渡された眼鏡を慌てて受け取るレイムの様子を見ると、シェリーは立ち上がり、黙り込んでしまっているケビンに近づいた。



「こんにちは、お兄さん」

「…うるさい、私に話しかけるな……」



シェリーが優しく話しかけるが、
ケビンは警戒心剥き出しで答える。



「まぁ、そんなに警戒しないで。
 私達は、貴方を傷付ける様な
 真似は一切致しませんよ?」



シェリーはニコリと微笑みケビンの傍まで行くと、ドレスであるにも関わらずその場に座り込み、見上げるように彼を見る。


するとケビンはそんな彼女を見ながら、
ふと口を開く。



「…怪我の手当てをしたのは、お前か?」

「ええ。
 使用人達にはやらせていませんわ」


「………着替え、は…?」

「私と、それから彼にも
 手伝って頂きました」



いろいろと聞き始める相手に向かって、レイムを指すように手を動かすシェリー。


ケビンは問いの答えを聞くと少し安心した様に溜め息を吐くが、まだ完全に警戒は解いていないようで、目を逸らす。


すると、シェリーは何かを発見したように目を見開けば、ケビンの顔をじぃっと見つめる。

そして暫く見つめた
シェリーの口から出た言葉は、



「…貴方の瞳、凄く綺麗」



の、たった一言。

その言葉に、ケビンは驚いたように目を見開き此方を向く。



「…何、言って―………」


「―だから、ね。
 そんな綺麗な瞳を逸らさないで」

「……………ッ…」



シェリーは相手を見据えながら、そっと手に手を重ねると、一瞬ケビンは怯えるように身体が強張る。



「大丈夫、怯えないで。
 ここは貴方の居場所なのだから」



だが、シェリーが彼を宥める様に呟くと、その言葉に少し安心したのか、表情などは変わらないものの、肩の力が徐々に抜けていった。



「……居、場所――?」



小さくシェリーの言葉を繰り返すケビン。

そんなケビンの様子を見て
「よかった」と一言呟くと、



「その包帯、
 綺麗なものに取り換えましょうか」



ね、とシェリーが微笑む。

すると、後ろからひょこっとシャロンとレイムが顔を出す。



「私も手伝いますわ、お母様!!」

「わ…私も手伝います、シェリー様」



はっきり言ってケビンに興味津々なシャロンと、まだ若干怯え気味なレイム。

シェリーはそんな二人の頭を撫でながら、何処からか包帯を取り出した。



「ええ、ありがとう。
 じゃあ綺麗にしてあげましょうね」



それからケビンが包帯でぐるぐる巻きになったのは、シャロンに包帯が渡ったすぐの事だった。










□2に続く

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