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[PC視点]マッド・ブルーの凱旋纏め ラゼット視点



・2/16 淡桜にて
〜ペティットへ向かう際の森で迷っている最中に出会ったフランチェスカに紹介され、お茶屋「淡桜」の扉を開いた。そこに居たのはスーツの男で、同じくフランチェスカに紹介された客、ブルーだった〜
──互いに初めての、辛口の桜花酒。フランチェスカが居ない事から、用心棒は屋根裏に隠れてる、実はニンジャである疑惑まで進展。酔っ払い二人、同じ境遇と知ってお前は俺か、と。黒兎と男は馬鹿話と酒の回りとで混沌のままに更なる酒を飲み交わす。二日酔いと魔改造された記憶だけが残った。


・3/04 商店街にて
〜ミツキの誕生日会での二日酔いが抜けた頃。雨が降ったり止んだりの天気。ベヒモスにて、ごほうバーガーを買って部屋で食べようと帰路へ足を向けて。そこで見掛けたのは、前に淡桜で飲んだ相手で〜
──その男は改めて、ブルー、平凡な商人だ、と語った。やけに病院の匂いが香水に紛れて香る男だった。自炊の話に一人盛り上がる中、一時的に預かってもらった傘を病院帰りかと勝手に勘違いして貸し与えて。顔に似合わず親切だ、との言葉に突っ込みつつも、別れを。その後直ぐ、土砂降りになった。


・3/21 海辺にて
〜モルンニア、イルクセルへと向かい、帰ってきた。この街でやるべき事がが沢山あった。パフェを奢る約束も、苺大福を買ってくる約束も。姉貴を探す事も、そして直面する殺意にも。剣を暫く眺める中、掛けられた声は聞き覚えのあるもので〜
──遠出してきた際の、姉貴を探しに向かっていたとの土産話を。何処か遠くに行った、という姉貴。最後のこの街に足を踏み入れたが、痕跡がなかったから、と。そうして特徴を告げる。簡単にも。 更生したら追い出される、そんな盗賊団の話も。傘の借りを返すとの言葉。ラズ、と呼び、そして別れた。その後のお礼が、あまりにも予想を超えたものに歓喜する事は、その時は知る由も無く。


・4/04 廃屋にて
〜ブルーから魔導電磁調理器具が送られてきた。丁度花見の時期で、料理を作る約束もあった。捗る料理作り、礼を言わねばと偶然見かけた相手を追ったのだが〜
──銃を撃たれた。前もって剣を準備していたから良かったものの。そういう状況であったと察するのは難しくなかった。動揺する相手、疑問符を持つ黒兎。海辺の時に聞き損ねた、相手自身の話を伺う。ダストマウンテンで拾われた男、気持ちの良い話はない、との言葉。イェンス=ドゥナ=ブルー、慈善家の二つ名を持つ男は、自らの事を話すにつれて次第に突き放す様な様子となり、最後に姉貴の居場所が自警団である、と伝える。転がった銃と、悲痛に追い縋る黒兎がただ取り残された。


・6/06 酒場にて
〜射撃場で通りすがりざまに銃を返してから暫く。ルテユ沼地と慰霊碑の崖での依頼を予定とし、酒場で考え事に浸っていた。そこに現れたイェンス、否、ブルーを見付け、あの問いの続きを紡ぐ事とした〜
──自身の未練を断ち切った話。相手の生い立ち、どういう稼ぎ方をしてきたか、どんな金の回し方か、どんな奴隷だったか。黒兎の話を、まるで絵本の様に願う男へ、噛み付くようにも憤り。酔いに反比例し落ち着いていく怒りと、シーソーの対極の様に突き放しはじめる男。立ち去る際の、線引き、との言葉がやけに印象に残る。裏と表との、線引き。その後また、金銭を工面する為に一度売り捌いた魔導調理器が届くとは思いもせず。意図が更に絡まり、頭を悩ます事となる。


・6/17 ハーバーライトにて
〜ミカへミツキの時計を渡し損ね、ダートラディアと殴り合いをし、ハヴァラーラと殴り合いをし。そんな期間を挟んでクエストギルドへ向かった帰りの夜。ユベルティ捜索の依頼、ベリアとの会話、胡散臭さを感じながらも突っ掛る事にした〜
──曖昧な返事が続く。攻撃的にも質問を立て続けるのは十日前と同じ事。「何のメリットがあんだよ、慈善家。これもアンタの言う、"金の回る一環"って奴なのか?それとも本当に、"気紛れ"なのかよ?」その問いに、単なる気紛れだと。スラスラと出る嫌味の応酬に、怒鳴り散らして外へと。単なる気紛れ、その言葉には続きがあった。「そう、思っといてくれよ。その方がお互い楽だろ」と。


・7/05 森にて
〜賞金首を逮捕、間髪置かずにルテユ沼地での依頼を終え、アイス作りでも頑張ろうかと向かった商店街で賞金首逮捕時に居たノルンと再会し、学院では探し物の最中にフランチェスカと出会い、更に捗る。その一方で未だ燻る闘争本能。解消の為に鍛錬を行おうと森へと向かうが〜
──ゴールドビーとほぼ同時に見付けるイェンスの姿。「子供を見なかったか?」その言葉に怪訝を向ける。手には、相手へと返した銃。何を撃つつもりだったのかさえ聞かない。「建前で人、殺せるんだっけ。アンタは」「……『商売人は人を殺したりしない』」その言葉の後には駆け出していた。自身の長い耳にしか聞こえない悲鳴が聴こえたからだった。逃走劇の末、三つの剣を捨て置き、傷だらけで醜くはれ上がっている顔の少女を連れて、森を出る。誘拐した少女は、奴隷の子、商品として売られるべくして存在した、言葉の通じない獣人の女の子だった。


・7/6〜8/10 商店街/森/海辺/ヘラジカの角亭にて
〜仔猫の為に街で服を買い、そして食料を調達する。全てはただ道具としての維持費のようなものだった。ノルン、アウロラとの会話の中でもその意思は揺るがず、ただ人の目に奇異として映らない様に、ちゃんとした服を着せ、怪我を治す事だけを考えていた。言葉が通じない、人ではなく道具として。同時期、捜索されていたユベルティの理由を、そしてイェンス自身を知る為の道具として〜
──気楽な調子で笑う黒兎へ「それは生命、よ。…分かっているでしょうけど。その身を預かるからには、最後まで責任を持つ事ね。」とのノルンの言葉が突き刺さる。分かっている、口ばかりの言い訳、逃げる様な視線。見付け出したユベルティとの言葉の先にさえ、諦める気はないと言葉を落とした。「迷う方がいい。迷うことを避けて、何が真実だ。」ユベルティの言葉は的を射ていた。この一ヶ月で、ただの道具として見られなくなっている事は、紛れもない事実だったのだから。そして「 お前がやらないなら、俺がやる」とも。その意味は、今は知る事はなく。


・8/13 リラクゼーションサロン「アリエス」
〜リラクゼーションサロンへと、気分転換に仔猫を連れてきていた。途中から来た魔法剣士とだらだらと話していると、モコモコの中から出てきたのは、寝惚けたイェンスだった〜
──眠る仔猫。この場に似つかわしくない会話。「やるよ。本当にお前が欲しいなら。 好きな名前を付けて、お前なりに可愛がってやるといい」その言葉が出た時点で、手を引けた筈だった。だが、その後に控えていた言葉「そうでないなら……」に、鋭く言葉を突き付ける。「…………そうでないなら、また戻って、"お前"みたいな可能性を生むのかよ」と。 黒兎はイェンスと仔猫を、同一視していた。奴隷として生きてきて、大人になった相手は、人を道具として容易く売り捌けるのか、と。「俺はね。 生き物の命が貴くて、はかないものだって、よく知ってる。愛着を感じる人や物もあるよ。言っちまえばお前だって、そのうちの一人さ。俺はお前が可愛いと思ってる」返される言葉。言葉の止まる黒兎に、そうでなきゃこんな事はしない、と。そして最後に「ラズ、これはもともと俺の持ち物だ。お前はそれを返したんであって、捨てたわけじゃない。 日陰のものは、日陰においていけばいい。そこがあるべき場所だ。」と、言葉を締め括った。 何も持たずに、背を向け歩き出す黒兎。幸せそうな寝息を背に、結局、名前は呼べなかったな、と。息を、押し殺し。 「……可哀想にね」口元に押し殺し切れぬ震える笑みを浮かべるイェンスが見送り、明日を愉しみに、眠った。新たな影が現れた事には、気付かずに。


・9/1 喫茶店「ハーバーライト」にて
〜セシリアとの邂逅の後。またこの木の下に来よう、と言ったアウロラとの約束を遂げ、更に積み重なっていく悩み事。何一つ分からない不安、酒は逃げじゃないというキリイの言葉、不安定に陥る中。酔っ払う頭のままに全て解決させようと向かった先は〜
──喫茶店には、イェンスとルインが居た。険悪な態度で向かう黒兎。返る言葉に嫌味が滴り、イェンスは仔猫は何処へ行ったかは、知らない、と。「三日三晩眠れず考えた挙句捨てたんだっけ。可哀想だね」の一言が絶望に叩き落とす。返したではなく、捨てたと。全ての信用を破棄しようとしながらも、そう出来ない心が勢いを殺していく。仔猫はいつの間にか、居なくなっていた。その言葉だけが置き去りにされ。 「 …………言ったよな、捨てるんじゃない、って。オレが、どんな、気で…………どんなっ……」紫煙と共に吐き出される言葉は一つ。「 ……俺がどんな気持ちでその言葉を聞いたと思う」続けて、傷付いた、とも。既に黒兎は知っていた。同じ奴隷であった、と。希望などありはしないと黒兎自身で叩き付けた様なものだった。 言える言葉は無い。だが、そのまま帰ろうとする背へ、掛けられた言葉。「 捨てたって罰則にならないんだから、捨てていいに決まってる」その一言に、振り向き、顔面へ拳を入れ、その場を後にした。


・9/2 森にて
〜翌日の夜だった。酷い強風、それでも宛も無くさ迷い、最初の場所へと戻る。あの仔猫を攫った場所。膝を抱いて、何一つ手掛かりが無いまま、絶望に浸る。結局、道具としては扱えなかった。奴隷に希望などありはしなかった。俯く黒兎に、ランタンの明かりが近付く〜
──その姿と声は、見覚えも聞き覚えもあるもの、ユベルティの姿だった。揶揄いと、酒の誘いと、そして交渉の事を。全て、失敗したと。得られたものよりも、失ったものの方が多かったという、自らへの失望を抱えて。保身の為の免罪符として、返した事が全てだった。そうして、傷付いたという事も、殴った事も。総評してユベルティは、「ラゼットお前、イェンスさんの事好きなんだな。イェンスさんとの関係が悪くならないような行動を選択し、結果、傷付けてしまったことに落ち込んでる」と。誰もが傷付いている。何一つの利益などありはしない。意味の無いサイクルだった。 そんな中、手渡されたのはエスニックでエキゾチックな人形。何の意味を持つかすら分からないままに受け取り、そして告げられた言葉は、「あの子からラゼットにって預かってきたんだ」だった。目を見開く黒兎、故郷に送ってきたと続けるユベルティ。リラクゼーションサロンで仔猫を攫ったのは、目の前に居たユベルティであった。『お前がやらないなら、俺がやる』の言葉の通りに。手渡される、辞書と地図。涙で滲んだその場所の名は、ペッラ・メル・バムという町だった。


・9/4 港にて
〜仔猫に会う為の準備は一日で済ませた。向かう先は一直線、ペッラ・メル・バム。ドラゴン便の値上がりと見合わせ、雨のその日は最悪の気配が纏わり付いていた。「――お客さん、どちらまで?」それがイェンスの声だと気付いた時には、その最悪さの頂点に達したとさえ、思えた〜
──焦り、驚き、しどろもどろとなる黒兎。戸惑う男。思い出したから声を掛けた、という男は、森にて投げ捨てた黒兎の剣が自警団に預けられていると知らせた。「少なくとも俺はこの年が終わる頃には、居なくなる」そう言葉を落とせば、また黒兎の質問責め。自身みたいな奴に会った事が無かった、早く手を切るべきだった、と。「………………、……なんか、焦ってんの?」それが黒兎の抱いた疑問だった。「…………聞き出しても偽物ばっかだ、って証明が増えてく。二転三転、あと何回転目で本音が出てくるんだ?」それは、追い詰める様な問だったのかもしれない。 「じゃあ。 本当の事を言おうか。──俺は今も、奴隷のままだ。つまり、最初から騙してたってこと」  突然恭しい敬語へと口調の変わる男。身分を明かした以上、嘘を吐く事は出来ない、と。黒兎が傷付けたのは、過去ではなく、現在だった。そうして膝を着く相手に宣言する。「今度こそ、もう、捨てねぇ」と。


・9/20 海辺にて
〜真実が仔猫へ会いに行く事へのブレーキとなった。淡桜で酒を飲み、原因となったフランチェスカへ相談し掛けては酒を掛けられビンタを食らい。そして内包する殺意を解消する為に六花の神殿で鍛錬を行い続けた。通う道すがら、ノルン、そしてアウロラと会い、仔猫の無事を伝え、パケットとは一方的な鍛錬を行う。そして無理に拍車が掛かった矢先、風邪を引くこととなり〜
──オデットの勤める薬屋へ向かう途中の、海辺のタバコ屋の前で、イェンスと出会った。口調は相変わらずで、それがただ怪訝な表情を向けさせる要因となって。お前が嫌いだ、昔のお前は好きだった。何も変わっていないとは分かっていても、そんな言葉が突いて出る。咳き込みながらも。「おいで。 暖かいところへ行こう 」との言葉に、逃げ出す様にも駆ける黒兎。呼ばれるラズ、との名に、思わず足が止まり掛けて、転ぶ。 それでも相手の元には行かなかった。やる事は分かっていた。再度駆け出す背に掛けられる声は、微かに耳にして。「11月に」と。


・10/9 喫茶店「ハーバーライト」にて
〜オデットとパフェを食べる約束を果たし、キリイにシャーベットで揶揄われ、その間にもただひたすらに六花の神殿にて鍛錬を続けていた。埋まり行く記憶、闘争の本能。その一方で解決策を求め、イェンスの知り合いを探すも見当たらず、ギガトールには知らないと返される。行き詰まる中、六花の神殿にて一通のカードが届く〜
──待ち合わせ場所は喫茶店「ハーバーライト」だった。そこで待っていたイェンスと席へ座る。話の内容は、その11月に関する事だった。今日たったの一度、として。11月21日、それが廃棄処分の日だった。主人が帰ってくる。本物のイェンス=ドゥナ=ブルーは、きっとお前にとっては良い人間じゃない、と。そして、本題として、セシリアとの因縁を語って欲しい、と。理由は単純、リラクゼーションサロンで、助けを求めているように見えたからという。そうして語り出す。抜け落ち過ぎた記憶の断片、その中に仔猫を攫った理由も見出して。途絶えた記憶を最後に、相手に手渡すのはネクタイピンで。それを切っ掛けとして、敬語に戻り、突き放し。生きていてはいけないのだと。それを無視する様に、冬に雪を見よう、と約束して、その場を去った。11月を越える為に。


・10/27 海辺にて
〜森で会ったネージュは、ペッラ・メル・バムの近く、アクィート諸島に一度向かっていた。やはり仔猫の元へと向かわなくてはならない、その思いの再発。情報屋を渡り歩く最中、ギガトール神官から呼び出され受け取るネクタイピン。もう何度突き放せば気が済むのか、そう思う反面の、何故捨てずに手元に帰ってきたのかという思い。ギガトール、パケットからの「診療所に居る」との言葉。聞くべき思いと仔猫に会いに行くべき時間の優柔不断な天秤。「会えるとき、に 会ったほうが、いい」とのベガの言葉と、何回もの罵倒の言葉の果ての「行くって決めてンならさっさと行け馬鹿。明日にでも行け」というアウロラの言葉が後押しとなり、港に足を運んだ。決意は不安が付き纏うままに〜
──行き先はイルクセル。値上げされたドラゴン便の片道でほぼ所持金は尽きる。そこで自身の昔に所属していたメルガス盗賊団のワイバーンを奪取出来るか、といった所に掛かっていた。正に命辛々、奪取に成功し、カトランデを経由し二冊の本を購入して、アクィート諸島、ペッラ・メル・バムへと向かう。


・11/10 ペッラ・メル・バムにて
〜引き返そうか、という思いがあった。町へとただ一直線に続く道。田舎道の様な、のどかな風景。不安に押し潰されそうな中、その町の方角から向かって来た駆け足鳥。その背に乗るのは、緑色の髪の女性冒険者で〜
──照り付ける陽射し、炎天下にてこの先長いと伝えられ、げんなりしていた所、駆け足鳥に乗せてもらえる事になった。ネイトと名乗った冒険者と他愛も無い話をする内に、気持ちの内側を吐露していく。落ちない様に背中に引っ付いたまま、子供の様にも。ずっと心配で、今も不安で仕方ない、と。そんな黒兎へと掛けられた、今日はあんたの味方をする、その一言が頼もしく。漸くにも直前にして、向かう決心を抱く。


・11/20 広場にて
〜仔猫は喜んで迎え入れてくれた。行くべきだという言葉に後悔は無く、また来ると。漸く自身の目で再会を果たし、元気である姿を見る事が出来た。ペティットに帰ってきてからは慌ただしく情報を収集し、装備を整えに掛かる。神官から聞き及んだ、助けを求めた言葉の意味を解き。属性球を購入した後、広場へと向かい〜
──もう会わない。そういう話だった。だが、会うべき理由はあった。カトランデにて買った本、冒険者になった切っ掛けでもある、『マック・ロック・ロー』シリーズ。それを相手に手渡す為。重ねた思いがあった。そして、もう一つ、ネクタイピンを渡す為にも。この一ヶ月間の変化は知る事も無く、突き放されるかとすら思っていた黒兎は戸惑いながらも、静かに喜びを顕にする。 「 ラズ。 俺は、さ。 色んな理由があって、『気が変わった』んだけど。 その理由のひとつは、お前なんだ。 だから…… 」「……オレ?は、何もしてねーよ、ただ、馬鹿みたいに笑って、馬鹿みたいに話して。それだけだろーが。……オレは、出世払い、ってだけ」そう、軽く笑って。 一つの希望だ、と言ってくれた。だからこそ、その一つの希望として、やれる事をやるだけ。黒兎は、あの奴隷の仔猫を助けた様に。同じ様にするだけだ、と。


・11/21 カシギ森にて
〜目的は至極単純だった。トランクと呼ばれる砂浜で会った女と、マッド・ブルーを殺す事。他の誰もが殺めて解決させる道がないというのならば、たった一閃の元に全てを終わらせんと、準備を進めてきた。漆黒の鎧に身を包み、増強薬の紫煙を肺へ送り込む。闇の中、角の紅蓮がヘルムのスリット越しに浮き彫りになる。目的は至極単純だった。ただ、殺す事。それだけなのだから〜
──自警に司教に熊と人と。入り乱れる中、ただ目標を見付け出し殺す事のみを主観に置いた黒兎は駆ける。捉えたマッド・ブルー、そしてその横のイェンス。下手に動けば傷付ける状況下にて、燃え上がる蒼い焔。誰も死んではならない、イェンスの呟き。リウの挑発に乗るなとの言葉が飛び、神官の蹴飛ばせとの言葉が飛ぶ。刺突の如き蹴り、吹き飛ぶマッド・ブルー。イェンスは神官の手に渡り、動かぬマッド・ブルーへと警戒を向ける。と、そこに。もう一つの殺すべき目的、トランクが立ち塞がる。交渉の手段は持たない黒兎は、ただ倒れ伏したマッド・ブルーがトランクの魔法にて消えるのを眺めている事しか出来ずに。 「ナニが トリヒキ? 欲しいノ? 私、シラナイ。あなたタチ、目的。 ワカラナイ」その言葉に、各々の目的を告げる。イェンスの意志の元に。馬鹿がやりたいが為に。願う望みのままに。戻ってきてもらいたいから、と。そうして、トランクが諦めた、と思ったその後に。 「……。 スペアはアゲル。 ケド。 代わりに貰う。スペアのスペア」向けられるショットガンに、戦慄が走る。その瞬間には、『目的』は装填されていた。トランクを殺すという事。殺すか殺さないか、その境界で揺れる中、俺が参ろう、と馬を降りた神官ギガトール。既に記録はされていない、殺しに掛かるなら今この瞬間。そう思った途端に、トランクの内側から青い炎が燃え上がり、そして、焼け果てたのだった。

ロブ、ロイが逃げ出し、手元にはイェンス、否、ハロルドだけが残された。周囲では突っ込み合戦、傷だらけな様子と、血臭、仲違いに、終結した安堵と。「…………こいつらが、アンタの言ってた一つの希望、ってヤツだろ?」と、笑う。頷いて返される。これで漸く、自由の身を手に入れた。あの仔猫の様に家族が待ってくれている訳でもない。それでも、手を差し延べてくれた、希望と言ってくれた人達が居る。あまりにも自由な世界。この先をどう歩くかは、誰も知る所では無かった。


満身創痍のまま、診療所で痛む片手に触れながらも、呟く。



「 友達が分からないのなら、友達じゃなくていい。そんな形容は要らない。オレはただ、淡桜で馬鹿みたいな話をした事や、商店街で適当な話をして傘貸してすぐ土砂降りになった事も、海辺での昔の事を話した時さえ、楽しかったんだ。

あの日に一変した。海辺でオレは姉貴の事を語ってなけりゃ、アンタが探す事も無かったしオレが突っ撥ねる事も無かった。あの時会わなけりゃ、オレはアンタの裏の顔を知らなかった。それからだったよな、オレは、ずっと、アンタのせいで、って思ってたんだ。あぁ、終わっちまったって。オレのせいにする筈が、八つ当たりみたいな、会わなけりゃ、って。

けど、馬鹿なんだ。引き摺ってて、この街に来たばっかりで、右も左も分からなくて、でもラズって、呼んでくれて、そういう。

忘れようとしたさ、あの後に。けれど、オレはアンタの事を深く知ろうとした。突っ撥ねながら、ずっと。そしてアンタは、オレに色々なものをくれた。嬉しかったんだよ、オレは単純でさ。

あのあげたネクタイピンも、捨てるなら手の届かない所に捨てればいいのにさ。何でだよ。どうして、オレの手に戻ってきたんだろうな。喜んでもらえたんなら、良かった。

こういう些細な事でもさ、また笑い会えるなら。生きてても良いって思えるなら。俺は嬉しい。

大切な人なんだ。オレにとっても、さ。だから、これからも。

物語は──────」







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