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・11/02/09 酒場 encounter:テンガロンハット/マルスリーヌ
酒場は、前に行った時以上に賑わっていた。前はご飯を食べに行って、話で盛り上がったから良かったものの、今回は一人でだ。目的の人も居なかったから、あまり気分も乗らなかった。
酒に乗せて語るものだろう、と前の町で言われた言葉があったが、そう唐突に他人に声を掛けるようなのも、あまり私はしない方。尋ねる事もないのに話す必要が何処にあるのか。

だから初めて来た酒場であり誰も知り合いが居ないというのに誰とでも会話するカウボーイが珍しく見えて。しかし時間が経つにつれてただのナンパ男にも見えてきた。やけに私に冷めている辺り、美人にしか興味が無いのだろう。美人さんも綺麗に受け流していて、流石に彼は無いと思った。美人でもなんでもないこの犬の獣人の姿で産まれてきた事を神と母と大地に感謝するべきなのか、あの男に好かれなかった事だけを天秤にぶら下げると、非常に微妙。結構どうでもいいが。

一方のその美人の方。当たる、どころでは済まない占い師だった。まんまと引っ掛かった訳じゃないと信じたい。寧ろ、まんまと引っ掛かったと信じていたいのか、私にさえわからない。母さんの花は赤しかなかった。それしか見えてなかった。ただそれしかなくて。
白い花になんて見向きもしなかった。赤い花が、母さんが見せてくれたあの嘘を、あの真っ赤な花だけしか見付けようとしていなかったから。
少し、抜け出せた気がした。それでもこれはまだきっと、気のせい。抜け出すには、自分自身の力が必要なんだと私自身が一番良く知っている。誰も知らない、誰も助けられない。私だけの戦いだろうから。

全てが終わったら、また見てもらおう。

詰め所の処分市で買ってきた花瓶に白い椿を入れてみた。たったの一輪だが、綺麗に咲いている。この花は少しの間に過ぎないだろうけど、それでも今はあの占い師、マルスリーヌの言葉を信じていたかったから。


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