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・11/04/23 裏通り encounter:ジル
漸く合致した。この街に来た最初の日の日記に書いてあった通りだった。
あの日はジルとぶつかって、その間にポケットに入れてあった薬が無くなって。全くもって必要な物でも金目の物でもなかったから良かったけれど、あの子は私にも盗みを働いていたんだ。

そう思うと、この街に来ていきなり盗みに会っていた、という事らしい。何だか。

それでも今更だというのもあるが、問い詰めようという気は起きない。盗賊とて生きる為に盗みを働いていて、そうやって生きていくと決めているのだから。大した被害が無いだけ、良いという事にしておこう。
茶色のコートを着たあの少女も言ってたっけ。仕方が無いんだと。私にはまだその世界は分からないけれども、私如きが止められる事ではない。少し、気持ちは分かるし。

あとは、ジルを追っ掛けていた賞金稼ぎ達に顔が覚えられていないかだけだ。雨に遮られた路地裏では視界はそう良くは無かったから、見えていない事に期待しておきたい。この街で怯えながら生活する様な気持ちは、そう何度も味わって慣れるものでもないのだから。
それにしても、影使いか。まだ決断は出来ていない。それでも潔く終わらせるなんて事も考えていない。足掻いて、足掻いて。そして私自身が私に決着を付けなければならない。蝙蝠にも注意しろと言っていたか。此方も、名は一部に知られていたようだし。

変な出会いもあったが、盗賊が追っ手を撒くのにも使われる事も分かった。良い例だ。逃走経路にも障害物等の環境はそのまま。
あとは用意するものは手袋、耐熱性のあるグローブか。この前のセールで買えるようなものではなく、本格的な工業用が望ましい。

こうまで商店街の直ぐ裏が細く入り組んでいるとはね。

今の所計画の狂いは無し。順調。でも今日の様な雨では駄目だ。まだ見付かるし、もう少し強くなれば目眩ましにもなる。雨が弱ければ人も出てくる。消音器は付けるつもりだが逃げる間の音は掻き消せやしないだろう。

こう計画を練ると、師や仲間との日々を思い出す。あれはダメだ、これもダメだ、あれを使おう、ここに決めよう、と何時間も話し合ったっけ。命を奪う事がゲームじみていて、最初は怖かった事を覚えている。

今は怖くない。手は、震えていない。

あの時とは違う。今は、私が一人で計画を立てて師の銃を使い、一人で命を奪うのだ。

躊躇いは無い。

もう群れではない。一匹の猟犬だ。


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あきゅろす。
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