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・13/08/10 ヘラジカの角亭 encounter:ユベルティ
待ち合わせの時間。外は強風だった。窓に叩き付けられる風が耳障りでもあって。こっちの方が好き、か。ドライフルーツで釣られる俺ではねぇけど。
ギリギリ行けるってなぁ。俺が猫の人と、って犯罪級な気配がすんのは気のせいじゃねぇか?何歳の時だ。遠い目を向けるな。
ノルンに手伝ってもらった、って言ったらなんだ、あの反応。ムカつく。

どうするつもり、その言葉は早い。俺はまず聞いてから考えなくちゃならなかった。そして、やっぱり耳にしたのはその真実、か。人売り。分かり切ってはいた、筈だった。ユベ自身、探る為に依頼に協力していたらしく。本当の商売、に関して。そして本当にその場に出くわして、随分と掻き乱したらしい。それが、追われる原因。
奴隷の、叩き売り。見切り品。使い物にならない、有用性のない、実用価値のない、商品としての存在価値すら無くなった、ヒト。牛のモツ、そういう表現が的確な、ヒト。人権、そんなものありはしない。本人ですら、諦めている。その分、こっちのはまだ幼くて、痛いから逃げ出した。大人になれば、それの無意味さすら知ってしまう。俺は、どうにも出来ない。ユベにも、どうにも出来なかった。

俺は、自警に被害届が出された次点でアイツが合法的に通す手段を知っていると踏んだ。権力を行使出来る様に変換する力は、持っている。金を回す方法、アイツはそう言ったか。経営者として一代で成り上がった、元奴隷。夜専用、とは言ってやがったが、ただの奴隷からの叩き上げでああも上手く回せる訳も、無い。単純に、殴り込んで進める相手じゃない。既に、ただ買い物としての交渉、俺の剣は意味を成さなかったのは被害届で分かり切っている。
だから、そう。ユベの言う通り、力が必要だろう。ついでに、きっと意味合いは違う。俺に自警への抑止力はない。ただ単純に、潰し、壊し、殺す力だ。そういう抵抗手段が、俺にはあると言う事。切り抜ける最終手段として。だが、前提として俺が仔猫を攫ってった理由が、曖昧ながらも存在する。

そいつは決してユベの言う命だとか人権、道徳性にすら掠めもしない話だ。俺は、あの仔猫を道具として、取引材料として、人質として攫っただけに過ぎない。
助けた事に、ユベは安心してたんだろう。けれど、俺は助けてなんか、いない。これからまた、イェンスの所に送り届けるんだから。取引として。わざとらしい、か。言う事でもなかったのは、事実だろう。

俺は結局、全てを見ないで捨てる事が出来なかったのかもしれない。それは俺の欠損した記憶の中に重なる部分が、多分あったからだ。ユベは、俺のして欲しかった事、って言った。俺は、何故逃げて、どうして、捕まったら。俺は何から助けて欲しかったんだ。結局何れ程考えても思い起こせはしなくて。

ただ、何となく。アリアンロッドへの殺意に、繋がる気がしたんだ。どうしてかは、分からない。

捕まって、捕まったらどうなるのか。差し出したら、イェンスの元に戻ったら。俺は、どう同じ様に光景を、重ねているのか分からない。

ただ、この仔猫が、壊れる気がして。

イェンスは、壊れてるのかな。人をモノとして扱える。人を殺せるに等しい、想い。俺はアリアンロッドを殺そうと思う事に何一つの躊躇いは、無い。躊躇いを持つ原因は全て、楽しくやってきた奴らにある。それさえ無ければ、俺は間違いなく、殺しに掛かっている。その妥協無しに、俺は確実に、人を殺せるんだ。

そういう壊れた奴らを、生み出す要因に成り得るのかもしれない。何も思わず、人としての価値の視界か潰される。これは、価値観の段差。俺達とは違う、人の価値の、命の価値の相違。


俺は、何をすればいいのか。

ユベと話して解決、いや、道筋くらいは見えるかと思っていた。けれど、あぁ、返せ、だっけか。それが生きる機会を与えることなのか、また地獄に突き落とす結果になるのかは、分からないけど。

それも、アイツに聞くしかないのか。

慈善家。買う事はこいつらにとっての、慈善なのか?アイツは言った、金の回らせ方を知っている、と。金を無意味にばら蒔いている訳でもない、と酒場で語った。
どこまでが建前っていう壁なんだろうな。

俺の、本来の目的に、結局帰ってくるんだ。


建前をぶち壊してやるよ。そういう、道具の扱い方であって、俺の扱い方だ。

人でなし、とでも何とでも言えばいい。


それでも、俺は何を助けたくて、何を願っているんだ。
解決に至る道筋は。結局、こいつだけが助かろうとも、意味は無いんだ。


尊い犠牲。

都合の良い言葉だ。



ゼルサリスは倒された。この街の者達の力で。そこに居た内の一人だと探るのは、骨が折れる思い出もあった。嫌な名もあったけど。

お前になら、礼は言えるんだ。

姉貴を助けてくれて、ありがとうって。俺が成し得なかった事。


俺には、俺自身には、何が出来るんだ。
仇で、返しそうだな。どうやら。





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