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君の、
声に包まれる










歯ブラシを持って、外を吹き荒れる風の音を聞いていた。
雨は降っているのだろうか。

少し、
寂しい気がする。



寒い。

人肌が恋しいのだ。



しゃかしゃかと歯磨きに勤しんでいると、不意にコンコン、とどこかをノックする音がした。

聞こえたのが窓の方向だったので、窓の方へ向かう。


カーテンを開けて外を見てみれば、出夢の姿があった。




「もう寝んのか?」

「う、うん...」


私が窓を開けて発した第一声がこれ。
私には喋ろうとする隙を与えてはくれなかった。



「とりあえず、上がっていい?」



外は寒いんだよ、意外と。
と言いながら、出夢は部屋に入ってきた。



「...ほんとに来た」

「んぁ?」

「来ないかな、って思ってたから...」



口をゆすいできた私は、出夢の真正面に座る。
出夢は今、私のベッドに腰掛けているので
私は床にクッションを置いて、そこに座った。
上から出夢の声が降ってくるみたいで、心地がいい。



「僕のカノジョはまた随分と可愛いことを言ってくれるねぇぇえっ!ひゅーーっ」



テンションは相変わらずだったけれど。

この位置関係だと、出夢の声が私を包んでいるみたいだ。



「今日は泊まっていくの?」

「いや、まだ考え中」

「そっ...か」

「んな、あからさまにがっかりするなよ。帰りたくなくなるだろ」

「がっかりは、してないよ」

「まぁ、元から帰るつもりなんてないけどな」



そう言って笑った出夢は、楽しそうだった。
見てるこっちまで笑ってしまいそうな、そんな笑顔。



「ぎゃは。まぁ、萌が寝てる間に居なくなるような事はしねーよ」



その一言に、

その一言だけで安心してしまう私は、



相当な末期だ。



「もう寝ろよ。しばらく暇なんだ。明日はデートでもしようぜ」

「っ...うん!」



私を包んだのは、遠くから聞こえてくる雨の音と

出夢の声だけ。



それだけの静かな夜に、出夢の声はよく響いて。


水の中をたゆたう海月のように、
その声に溺れていた。













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