[携帯モード] [URL送信]
   




「あ、あ、あ、あのっ…!よよよよよければ私と、つ、つ、付き合って下さい!!!!!」


お願いします!と、両手で可愛いピンク色の封筒を差し出された。

放課後。帰ろうと思い靴箱を開けると小さなメモが入っていた。それには、現在いる場所と時刻、その下に"来てください。お願いします。"という文章が女の子特有の丸っこい可愛らしい字で書かれていた。

(ああ、きっと告白されるんだな)

可愛い子だといいな、なんて思いながら指定の場所に向かう。少し指定より早い時間に行ったにも関わらず、そこには既に人がいた。俺と目があった瞬間の表情を察するに、その子がメモを入れた本人だと確信した。小柄な体に肩にギリギリ掛かる位の長さの髪、そして何よりも印象的なのは茶色の大きな瞳。確かこの子は友達の間でもほわほわしていて可愛いと噂されていた隣のクラスの子だった気がする。


「あ、あのっ」

「君は確か」


友人が言っていた名前を口にすると、「知っててくれたんですか!」と大きな瞳を輝かせた。そして、冒頭の台詞と共に手紙を差し出された。


「あ、その…悪いんだけど」


手紙を受け取らずそう言うと、目の前にいる女の子は顔を上げ、瞳を潤わせた。
この子には悪いけれど、付き合えない。可愛い子だといいな、なんて思って来て、実際来てみたら可愛い子で、嬉しいっていったら嬉しいんだけれども、やっぱり"彼女"には敵わないわけで。どうやらどんなに可愛いと噂されてる子でも"彼女"に勝てる人は中々いない。多分、今この子と付き合っても、"彼女"と比べてしまって失礼なだけだ。
しかしどう断ったら最低限の傷で済むのか、俺は断る術を知らない。普通に"気持ちに応えられない"でいいのだろうか、今にも泣き出しそうな女の子の顔を見るともう一言添えてあげるべきなのか、戸惑ってしまう。


「その、ほら。俺、君の事よく知らないし」

「じゃあ、お友達になってから、考えてくれますか」


変わることのないだろう結論を先延ばしにするだけでなく相手に期待を持たせるような答えを出すなんて俺は最低だ。この子の質問に俺は何も返せずにいると、遂にぽろぽろと涙を溢し始めてしまった。


「あっ、違うんだっ、」

「ふ、ふえぇぇ…」

「付き合わないんだったら付き合わないで"ごめん"って言えば済む事でしょ?このヘタレ」


両手で顔を覆って泣いてしまった相手に戸惑っていると、突然、聞き覚えのある声がしたので顔を上げる。泣いていた女の子も突然の第三者の介入にビックリしたようで恐る恐る振り向いた。


「リン」


"彼女"の名前を呼ぶと、リンは小さく溜息をつきながら続けた。


「全く。買い物に付き合ってもらおうと思って教室行ってみたら誰もいないし、下駄箱見ても靴はあるし、携帯電話に連絡入れてもお留守番サービス繋がるし。やっと見つけたと思ったらこんな可愛い女の子泣かしてるし。」


ほら、大丈夫?と言って女の子にハンカチを差し出す。そして俺の事を罵倒しつつ慰めに入る。女の子も段々落ち着きを取り戻したようで「はい、目が覚めました。あんな優柔不断男、やっぱりいらないです。」と、言った後、リンに向かって"ありがとうございました!"と大きく手を振って去っていった。え、ちょっと待って。いつの間にか振られてるんだけど。いや、断るつもりだったから全然いいんだけど、なんか貶されてるし。なんで?


「あーあ。振られちゃったね、レン君」


茫然と突っ立っていると、にやにやしながらリンが寄ってくる。しかも罵倒付きで!なんて面白そうに言ってくるものだから、『誰のせいで』なんて思ってもみたけれど、口に出すと怖いので言わないでおいた。


「…で、買い物に付き合えばいいわけ?」


リンの先程の台詞を思い出したので口にしてみる。すると「そうそう!」と頷いた後「勿論付き合ってくれるわよね?」と言って笑顔で脅してくる。
別に今日は何の予定もないので断る理由はない。いいよ、と答えるとリンは綺麗に笑って「よし、行こう」と俺の手をひく。


"彼女"は本当に可愛い。否、可愛いだけじゃない。美しく、気高い。元々勉強や運動は人よりも少し秀でていたが、負けん気からか、何事においても日々努力を惜しまなかった。少しでも判らなかった問題があったら何回も復習し、リコーダーが上手く吹けなかったら夜まで笛の音が家中に鳴り響き、逆上がりが出来なかったら朝のジョギングの時間に鉄棒というメニューを追加していた。性格も決して悪くなく、誰にでも平等で人望も厚い。そんな人が学校で人気者でないはずがなく、常に彼女の周りには人がいる。
そんな完璧な"彼女"と常日頃一緒にいる俺は、どんな可愛くて優しい子でも、"彼女"に対する好意以上の感情を持てなかった。

隣に歩く"彼女"に目をやれば、背筋が夕日に照らされ輪郭をはっきりと浮かび上がっていた。
勉強も、運動も、性格も、欠点等どこにも見当たらないそんな"彼女"―――鏡音リンは、俺の自慢で、誰よりも愛しい、双子の姉だ。



 * * *



同じ時に、同じ場所からやってきたのに、どうしてこうも姉弟で違うのだろう。俺は別段これといった才能があるわけでもなく、勉強も運動もそこそこ。唯一同じものと言えばリンとそっくりな容姿を持って生まれたこと。リンのような愛らしさはないものの、それなりに整った顔立ちであると自負している。だから今日みたく告白されることだって少なくはない。


「レンはさー、彼女とか作らないの?」


キィ、キィ、という椅子の悲鳴と共にそんなことを聞かれた。その言葉の裏にどんな意味が隠されているのか…リンの真意は測り兼ねるが、様子を見ていると別に俺の答えには興味がないようで、椅子の背もたれに腕を乗せ爪を弄っていた。どうやらただの会話の切り出しの一つに過ぎないようだ。


「なんで?」

「いや、今日も可愛い子だったのに何で断っちゃったのかなー、なんて。」

「んー。今の俺にはまだ早いかなあ、って思って。付き合うことに興味ないわけではないけれど、なんかピンと来なくて。」


どうしてもリンと比べてしまうから、余程の魅力がない限り付き合いたいとは思わない。そんな本心は胸に閉まって置くとして、リンでも納得できるような当たり障りのない返事をする。


「ふーん?中々変わってるのね、レンって。ははーん、もしかしてお姉ちゃんが魅力的過ぎて他の女の子に興味がいかないとか?」


悪戯な笑みを浮かべながらそんな事を言う。ずきり、と胸が痛んだ。俺の真意を悟られているわけではない。冗談なのは判ってる。俺、今酷い顔してないかな。ちゃんと冗談だって受け止めた顔、出来てる?表情だけじゃダメだよね。なんか言わなきゃ。


「ははっ、バレた?リン以上に可愛い子がいなくてさー」

「きゃーっ!シスコン!」

「嘘だよばーか」


笑いながら額を小突いてやればリンは「ひっどーい」と言って額を抑えながら頬を膨らました。
冗談のようにしか本心を伝えられない俺は、本当に臆病で、根性無しだ。


「そういうリンだって彼氏作らないじゃんか」

「だってー。付き合うってことは、自由な時間ずっとその人と一緒にいなきゃいけないんでしょ?」

「…いや、必ずしもそういうわけじゃないと思うんだけど」

「でも大部分はそうでしょ?私、自分の時間を誰かに捧げなきゃいけないなんて耐えられないもん!」

「ふっ、リンらしいな」

「お、判ってくれるかい?少年よ。」


俺が笑みを漏らすとリンもニカッと笑う。ああ、理由が本当にリンらしい。きっとリンの時間を奪えるのは、相当良い男だろうな。もしそんな男が現れたら、俺は尊敬すると共に嫉妬で狂ってしまいそうだ。


「あーあ。私もね、一応人並みに興味はあるんだよ?恋愛とか。でもレンも言ってたように、ピンと来ないんだぁ。」

「…へえ。一緒だね」

「なんでだろーねー?」

「さあ?もしかしてリンも弟が魅力的過ぎて他の男に興味が湧かないんじゃないの?」


ああ、きっと冗談混じりにバレた?なんて、俺と同じ反応が返ってくるんだろうな。
そんな風に予想を立ててみるが中々反応がない。心配になってリンの顔を見上げる。


「はは、そんなわけないじゃん」


何言ってるの、と少し驚いたような顔をしながら乾いた笑いを漏らした。こんな反応をされたら、俺はどうしたらいいのだろう。俺の言葉、冗談に聞こえなかったのかな。もしかして、俺の真意がばれていて、拒絶されているのだろうか。


「…、ごめん。冗談だって」

「うん、判ってるからいいよ」


やばい、変な空気になってしまった。沈黙が暫く続いたが「でも」というリンの言葉によってそれは破られた。


「レンが弟じゃなかったら、付き合ってたかもしれないなぁ」


リンの口からポツリと紡がれる言葉。
それは、俺がとても欲しくてならなかった言葉であると共に、自分の立場にとっては残酷な言葉であった。

(ああ、リンが欲しい)

今まで何度思った事か。しかし俺達は姉弟。そんなことは許されない。理性で抑えつけてきた感情が、黒くなって心から溢れだす。
気が付いたら俺は、リンの唇に自分のそれを押しつけていた。我に帰り、急いでそれを離すとリンは驚いた顔をして、自分の唇を指でなぞった。


「れ、…んんっ」


リンから拒絶の言葉を聞くのが怖くて、もう一度口を塞いだ。
―――ああ。もうどうにでもなれ。
どうせこの先拒絶されるのならば、出来るだけ多くの彼女を貰っておこう。最低だなんて判ってる。最愛の人を傷つける事でしか繋ぎとめられないなんて、とんでもなく愚かだ。
リンの頭を固定しながら、空いた方の手で服の中を弄る。行為を続けるものの、リンの言葉を聞かなくても済むように常に指を咥えさせた。
挿入るときは処女だったようでとても痛がっていた。証拠にシーツにはいくつもの赤い染みが出来ていた。己の劣情をリンの胸に吐き出す。


「リン、ごめん。愛してるんだ。ずっと、ずっと前から」


こんな事言っても自分のやってしまった過ちは変わらない。『愛してる』という言葉も、行為中に何度も何度もリンに囁いた。しかしそれはリンからは帰ってこない。自分がリンから発言権を奪っているから。 
リンの顔を見れば頬には涙の跡が残っていた。もう既に涙は枯れてしまったらしく、ただただ俺の瞳をじっと見つめていた。思えば、行為中も貫通した時のみ暴れただけで、特に抵抗はしてこなかった。もしかしたら、リンは判っていたのかもしれない。いずれ、こうなってしまうことを。
俺はリンの口から指を抜くと、ポケットの中から携帯電話を取り出す。


「な、なにしてる…の」

「ん」


携帯を操作し撮影モードに切り替え、リンにピントを合わせる。カシャッという音が部屋に響いた。


「リン、誰にもこれ見せられたくなかったら、俺の言う通りにしてね。勿論、今日の事は誰にもいわないで」


ああ、本当に愚かだ。
こんな風にしか繋ぎとめられない。

リンの中で、俺という存在が特別な何かに変わってくれればいいのに。
もう"弟"として俺を見ないで。


いつまでも2番な俺が、どうかリンの中で1番になれますように。






星に願いを






(私もレンが好きだった)(でもそれを伝えてしまったら理性が保てない気がする)("姉"と"弟"ではなく"加害者"と"被害者"である今だけは、"禁断"の恋ではないと信じたい。)

 + + + 

星に願いを(ほしにねがいを)
リクエスト「いつもイケリンにリードされてるヘタレンの逆襲」

妄想日和 (にさ)
http://m-pe.tv/u/?mno2





[*前へ][次へ#]

第3回BLove小説漫画コンテスト開催中
無料HPエムペ!