帰りのホームルームも終わったので机の中の教科書を綺麗に揃え鞄に詰めていると、ドアの方から名前を呼ぶ声がした。振り向くとそこにはリンの友人と、見覚えのある背の高い細身の男の子が立っていた。 こっちのクラスはまだ終わったばっかりなのにもう来るなんて早すぎる、とリンは支度のスピードを慌てて速めてみるものの、気持ちだけが焦るばかりで作業自体は全く進行しない。そんなリンを見ても友人は容赦なく催促してくる。 「おーい?リン?彼氏さんがお迎えにきたよー?早く来てあげなよー」 『彼氏さん』と言われている友人の隣の男の子は…そう、リンと"彼氏"という関係の人。そう言われた瞬間、残っているクラスメイトからヒューヒューと冷やかしを受ける羽目になった。ほぼ日常と化した事なのに、未だ慣れないリンの顔は赤くなる。 「ちょっと待ってよ!これでも急いでるの!」 「これでもって全然そんな風に見えないんだけどー?」 いやいや、凄く急いでますから。あなたが冷やかしたせいで余計に焦って無駄な動きが多くなってるんですけど?! そう言ってやりたいが、如何せんそんな暇もないくらいリンの頭の中は混乱していて、次にする行動を考えるので精一杯。 そんな彼女を見るに見兼ねてか、友人がリンを呼びに一歩踏み出そうとする。しかしその行動は、リンの彼氏―…鏡音レンに肩を掴まれて止められた為、出来ずに終わった。 「か、鏡音くん?」 レンの行動に友人は不思議そうに声をあげる。そんな彼女を見てレンは微笑みながら口を開いた。 「別に俺は構わないからいいよ。」 「そ、そう?」 「うん」 そんな短いやりとりの後、今度は少し大きめの声でリンに向かって言葉を送る。 「リン!気にしなくていいからゆっくり準備して?」 レンはそう言い終えると「ごめんね、ありがとう」と、友人の肩から手を離した。 その行動に誰もがほう、と感心する。証拠に先程まで冷やかしていたクラスメイト達もそれを止め、口をぽかんと開けてレンの方をじっと見ていた。 「う、うん。ありがとう」 そんな中、リンはそう答えて作業を再開させる。あとは筆箱を詰めるだけだったので直ぐに終えることが出来た。鞄のチャックを閉めると、ととと、っとレンのいるドアへ走って行く。 「おまたせっ」 「いえいえ。さて、帰ろうか。」 「うん」 「じゃ。みんな、ばいばい」 「またねー!」 そういって2人はクラスの人たちに手を振ると教室を後にした。 2人の姿が見えなくなると、教室の中はどよめき出した。 「やっぱりレン君って紳士だよねー」 「うんうん!リンってばいいな〜。あんな彼氏がいて!」 「ねー!最期の聞いた?!ばいばい、だって!違うクラスなのにそう言ってくれると感じいいよねー!」 「そういえば鏡音ってこの前の模試一番だったんだろ?」 「えー?!すごーい!この前部活でも表彰されてたよねー!」 「友達が歌も凄く上手いって言ってた!」 「くそー!完璧超人かよ!俺らのアイドルの鏡音さんが奪われたのも無理がない!」 「あいつには敵わん。挑みたくもねぇ」 「うんうん」 「っつか鏡音に欠点なんてあるのか?」 一人の疑問に皆の声がはたりと止まる。 「ない」と言われても納得出来てしまう、それは満場一致の結論だった。 * * * さてさて。先程まで人気だった鏡音レン君。確かに成績優秀だし、スポーツ万能、顔立ちだってとても綺麗でかっこいい。ここまでは、まあ合ってると思うの。だけどね、優しくて紳士みたいな性格…ってそれは絶対に間違っている! だって、こんなに変態なんだもの! 「ねーねー、リンたん」 「…なに」 「今日のパンツ、俺のお気に入りのやつだよね?本日のにゃんにゃんタイムで俺を萌え死にさせる気ですね、わかります!ハァハァ楽しみだよ」 「違うから。大体にゃんにゃんタイムなんてないし。」 「え?!お揃いのブラもつけてるのにお預けですか?!放置プレイっていうのもそそるけど、やっぱりリンたん分は補給できる時にしとかないとね!」 「ちょっ、なんでブラまで知ってるの?!」 「そりゃまあ夏服だからだよ。夏は透けブラ見放題!勿論リンたんのしか興味ないよ?あ、今日は服の上からお触りしてもいいですか?!透け透けぷr どごっ、と言う音と同時にレンは後方へどさりと倒れる。我ながらいい音を出したと思う。私はレンの顔面に向かって思い切り鞄を投げた。 「ちょっと黙っててくれるかな?」 「お、怒ってるリンたんも可愛…って、ぐはっ!」 「黙っててくれる?」 「うぅ…」 笑顔で腹を踏んでやると、レンは地面に仰向けに倒れたまま「すみません」と呟いた。 現在私たちは下校中。教室を後にしてから下駄箱で靴を履き替え、正門をくぐってきた。そこまでの私たちはごく普通の仲の良いカップルだ。しかし!人気のない道に入った瞬間、レンは変わる。そう、さっきみたいな変態に! レンは確かに紳士です。必ず私の意見を尊重して物事を考えてくれるし、私が困っている時はさりげなく、最低限のサポートをしてくれる。 ただ、それは皆の前でのこと。2人っきりになった途端、彼は変態へと豹変する。どっちのレンが本当なのかは知らないけれど、とにかくあんな風にキモくなる。 最近では『変態という名の紳士』という言葉は、レンのためにあるんじゃないかと思えてきた。 「リンたん、リンたん」 「今度は何?」 「リンたんのお家寄ってってもいい?」 私の家まであと5分くらい。今日は誰が居たっけ。お母さんいたっけかな。いくら変態でキモくてもレンは私の彼氏というポジションの男の子なわけだし、実際好きだっていうのは事実だし…何よりもうちょっと一緒に居たい気もするし… 「どうしても来たいの?」 「凄く行きたいです!」 「レンが来たいなら、いいよ」 「ほんと?!やった!」 そう言うとレンは嬉しそうにスキップをしながら「リンたーん!早く早くー!」と言って私の手を引いた。 * * * 「あら、こんにちは。レン君。久し振りじゃない?」 「こんにちは。お久し振りです。前回は夕飯までご馳走様になってしまい済みません。」 「いえいえ!あんなものしか作れなくてごめんなさいね!」 「とんでもない!とても美味しかったです!僕の母に話したら、今度一緒にランチにでも誘って色々お話してみたいと言っていました。」 「まあ本当?じゃあ、是非お願いしますと伝えといて貰えるかしら?」 「ええ、判りました。伝えておきます。きっと凄く喜びますよ」 「うふふ、楽しみだわ!あ、そうだ!レンくん。今日も良かったら夕飯一緒に食べていって!これから買い物に行くから張り切って作っちゃう!」 「いいんですか?!」 「ええ、勿論!」 「わあ、有難うございます!ではお言葉に甘えてそうさせて頂きますね!楽しみだなあ」 「じゃあお母さんは買い物に行ってくるから。リン、レン君に迷惑かけるんじゃないわよ」 「…はーい」 家について玄関を開けると丁度出掛ける様子の母と出会った。案の定出掛けるらしく、私はお母さんの背中を見送りながら手をひらひらとさせる。レンも私の後ろで手を振りながら「いってらっしゃい」と人懐っこい声を出した。全くさっきの会話の時といい、一体こいつは誰なんだ。さっきの道路の変態さなんて微塵も感じられない。大人受けの良い笑顔といい声といい、今までに何人の人がコイツに騙されてきたのだろうか。 玄関が閉まるのを確認すると、ドアに鍵をかける。さて、とりあえず部屋に行こうか。私は階段を上がり、二階の自室へと向かう。レンも大人しく後ろをついてきた。 「あー、つかれたあ」 足を放り出しながらベッドに腰を下ろす。ぎし、とスプリングが悲鳴をあげた。レンはというとドアの前に突っ立ったままで一向に動く気配はない。 「ちょっと、レン」 「なんだいリンたん」 「着替えたいんだけど?」 「どうぞどうぞ」 「いやいや。着替えたいから出てってくれないかな?」 「えっ、リンたん俺と透け透けプレイをする約束s「し て ま せ ん」 「ええ!そんなぁ!」 本気で残念そうな顔をするレン。しかしそんなこと私には知ったこっちゃない。なんで私が変態プレイに付きあわされなきゃいけないの?! 「いいから早く出ろ!」 私はレンの首元を有無を言わさず掴むとドアを開け、勢いをつけてそのまま放りだす。バランスを崩している隙にドアを閉め、鍵をかける。 『ちょ、リンたん!開けてよ!ねえ!酷くない?!』 ドンドンドンとドアの叩く音が聞こえるが気にしてたらきりがない。さっさと済ませようと服の入った引き出しを開け、着替えを取り出した。 制服のリボンを外し、スカートのホックを外す。そしてファスナーを開けてやればストンとスカートが床に落ちた。ブラウスもボタンを外し脱ぐ。あっという間に下着と靴下だけの状態になった。 (よし、あとは着るだけ。) 着替えに手を伸ばし掴むと、急にガチャリと閉まっているはずのドアが開く。 「え…」 「リンたん、ひどくってうわ!ナイスタイミング俺!」 「なななななんで?!」 「ん?」 「かかか鍵!鍵は?!」 「部屋の鍵なんてコインかピンがあれば余裕で開けれますから!あ、あと愛の力?」 両手を広げてレンが近づいてくる。ひっ、と小さく悲鳴をあげながら掴んだ着替えで身体を隠すがそんな抵抗も空しくあっさりと剥ぎ取られてしまった。 「やっぱり下着合ってたね!俺ここのレースが好きなんだぁ!」 そう言ってレンはブラの紐に手をかけた。手に掛けられた紐はいつの間にか肩の上から横に移動していて、脱がされる寸前だということ理解した。 「やっ、レン」 「あ!リンたんもしかしてまた恥ずかしがってる?可愛いなぁ!もう何回もやってるのに!」 「は、恥ずかしくなんかないもん」 「そう?」 にやにやしながら見つめてくる目の前の男の顔が憎らしい。恥ずかしいに決まってるでしょ!察してよ! レンは縮こまった私を抱きしめる。彼の腕の中で私はじたばたと必至に抵抗を試みた。なんだかいつもより力が強い気がするのは気のせい?なかなか離れてくれない。 「や、離してよ!変態!ばかばかばか!」 「…リンたんはさ、」 「はーなーしーてー!」 「俺のこと、きらい?」 は… 急に声色が変わったので不思議に思い、抵抗する力を緩めると顔を上げ、レンの瞳を見つめた。先程までの目とは違う、悲しそうな瞳をしていた。 言葉を理解するのはレンの顔を見てから数秒経ってからのことだった。 きらいかって…、嫌いだったら付き合うわけがないじゃない。付き合う前はこんな性格だってこと知らなかったけれど、別に嫌なわけじゃない。嫌だったらとっくに別れている。むしろ、こんなレンは私しか知らないんだってちょっと誇らしい気持ちもあるし、普段完璧な彼だからこそ2人きりのときにこうやって甘えてきてくれて嬉しいっていうのもある。 だけど。 「きらいよ」 「…え…」 「きらいきらい」 「リ、…ン」 「勉強もスポーツも出来て、かっこよくて、おまけに誰にでも優しくて人気者のレンが好きなの!今みたく2人きりになると常に欲情して甘えてくる動物みたいなレンなんて…」 涙がじわじわと溢れてきた。 …なんで泣いてるんだろ、私。 「狡いよ」 レンの肩を掴み、無理やり唇をレンのそれに押しつける。肩に置いた手を頭に回し、動かないように固定するとレンの口内をねっとりと弄る。 どれくらいの時間が経ったかは判らないけれど、5分くらい、そうしていたと思う。唇を離し、レンの目を見ると不思議そうな目をしてこちらを見つめていた。 「レンは狡い。なんでも持ってるじゃん。完璧に日常をこなしてる。…なのに、2人っきりの時にこんな風に甘えられたら、私しか知らないレンが見れるんだって嬉しくなって!…そんな、そんな私だけのレンを嫌いになれるはずがないじゃんっ」 「リンたん…」 「そんなレンが、ずるくてきらい」 そこまで言い終えるとレンの胸に顔を埋め、ぎゅーっと抱きしめた。出来るだけ、強く。するとレンの手も優しく包み込むように私の背中に回ってきた。 「ごめんね。ごめんね、リンたん。疑ったりして。好きだよ、リンたん。愛してる。だから、ごめんね?」 ―――ああ、本当にレンは狡い。 そうやってまた私を優しさに溺れさせて、嫌いになれなくする。私の回りくどい愛情表現をちゃんと受け取って、返してくれる。 「リンたん?」 「…心配させてごめんね。レン。大好きだよ。」 「りりりりリンたん?」 私はレンと向かい合うと腕を首へと回した。普段あまりこちらからこういうことをしない所為か相手は動揺している。 「にゃんにゃんタイム、してもいいよ」 「えっ」 意外な発言にレンは戸惑いを隠せない様子。うん、私もこんなこと自分で言うとは思ってなかったもの。でも、嫌な気は全然しない。寧ろレンに触れてほしい気持ちでいっぱいだ。 「…ただーし!」 条件が一つ。 「こういう時くらい、ちゃんと名前で呼んでよね!」 そうよ、なんでいっつも"たん"付けなの?意味判んない。私にはちゃんとリンって名前があるんだから、ちゃんと、その…名前で呼んでほしい。 レンがどういう反応をしているかが気になり、恐る恐る目の前を見上げてみる。ふるふると小刻みに震えながら俯いているレン。 「…ちょっと。聞いてる?」 「リンたん、なにそれ…可愛すぎる!やっぱり俺を萌え殺す気なんですね!」 「っきゃあ!」 顔を覗き込むと、いきなり抱きつかれてビックリした。っていうか 「"たん"は止めてっていってるでしょ!」 またレンを引き離そうとするが、今度は前と違って簡単に離れなかった。寧ろ抱きしめる力は強くなる一方で、離してくれる気配は一向にない。うう、こんな変態でもやっぱり男の子。私の力では勝てるはずがない。そう諦めかけていると、不意にレンの吐息が私の耳にかかりビクッと全身が跳ね上がる。 「リン」 吐息と同時に耳元で囁かれる甘い声。今度は全身が跳ね上がるだけじゃなくて体中に熱がこもった気がした。きっと、私の顔は真っ赤だ。 狡い、狡い、狡い。本当にレンは狡い。 些細なことでこんなにも私を戸惑わせる。 ああ、もう!やっぱり呼び捨てにされるのはもう少し待ってからにしよう。私の心臓が持ちそうにもありません。 「レン」 「なあに?リン」 「やっぱり元の呼び方でお願いします。」 天邪鬼 (レン)(なになに?リンたん!)(そうやって呼ぶのは、今まで通り私の前だけにしてね)(?うん?) + + + 天邪鬼 (あまのじゃく) リクエスト「キモレン×ツンデリン」 妄想日和 (にさ) http://m-pe.tv/u/?mno2 [*前へ][次へ#] |