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キモレン→(←)ツンデリン

キモレンというより変態。そしてリン廃




「リンたーん!」


ドドドドド、と勢いの良い足音と共にドアがバンっと開かれる。
共有フォルダにいたミクちゃんとカイト兄とメイコ姉が驚いて、音のした方角を一斉に見る。
その視線の先にレンがいることなんて私には判っているので、いちいち驚いたりしない。


「あんた、もうちょっと静かに登場できないの?」


メイコ姉は眉をしかめながらそう言うと、持っていた缶ビールを口に流し込む。


「リンたんに会えなかったのに落ち着いて登場なんて出来ないよ!早くリンたんを見たいんだけど!リンたんはどこ?!」


1人でペラペラと喋り始めるレンに呆れたのか…メイコ姉は溜め息をつくと、私の方をくいっと親指で指した。
私がボーっと2人のやりとりを眺めていると、バッと振り向く相方とばっちり目があった。


「あ、リンたん!」

「なに?」

「一万と二千年前から会いたかった!」

「レン、古い」


じと目で相方を見てやると「そんなリンたんの顔も素敵!」と言って、抱きついてくる。


今日で私達がインストールされて一週間。
マスターは初日から早速曲をくれた。
曲と言うのは私たちの性格に大きく影響するもので、一番初めの曲というのは特に大切。

…なのに!

レンの曲はラブソング…ってだけなら良かったんだけど、愛がちょっと歪み気味な様子。ストーカー紛いの行動をしてみたり、盗撮なんかもしてみたり。
こんなことが積もりに積もった結果がこれ。
俗に言う「キモレン」

さらーに!
例のラブソングは私宛。
つまり性格は+α。
「リン廃」要素も追加される。

この過程を知っているミクちゃん達は、大した文句は言わず、この状況を受け入れてくれている。(メイコ姉も本気でイライラしているわけでは無いみたい)むしろ、同情されている気さえする。


「リンたん、好きだよ。大好き。」


ぎゅう〜っと抱きしめる力がちょっと強くなる。背中に回された手は私よりちょっぴり大きくて、やっぱり男の子というのを実感する。

散々キモいとか酷いことは言ってきたけど、私だってレンが嫌いなわけではない。むしろ大好き。
だけど、今更態度を変えるコトなんて恥ずかしくて出来ない。
目の前にいる男の子は素直に自分の感情を伝えられることが凄く羨ましい。

私は「好き」なんて言葉に出来ないけど、せめて、抱きついたりするのは素直に受け入れよう…なんて。


「レーン」


突然、マスターの声がした。
レンは私に絡めた腕を緩め、画面の方へ振り向く。


「今リンたんとイイトコだったのに!」


レンが頬を膨らませて文句を言うと、ごめんなー、とマスター。しかし顔はどう見ても謝っているようには見えない。ニヤニヤした顔でこっちを見てくる。…そうだよね。マスターの思い通りの展開だもの。


「用件は?」


レンは不機嫌そうな声色で尋ねる。


「そうそう。用件は…って!お前なぁ」


マスターもなんだか不機嫌そう。
…っていうか怒ってる?

マスターの話によると、レンは今、PVの撮影中だったらしい。なのに休憩中こっそり抜け出してここに来た、というわけみたい。


「ほらっ、早く戻るぞ」

「あ〜!リンたーん!」


ずるずると引きずられて行くレン。
凄く間抜けな構図だ。
声の大きさとは反対に、扉はパタンと静かに閉められた。


「嵐のようだったね…」


カイト兄が呟くと後の2人もコクリと頷いた。もちろん、私も。

…さて。


「私も自分のフォルダに戻るね」


私はミクちゃん達にそう告げる。
三人は手をヒラヒラさせて返事をくれた。



 * * *



このパソコンの鏡音フォルダはリンレン共用。レンがどうしても一緒が良いといったので、私は"仕方なく"同意してあげた。

フォルダに入ると早速ベッドに腰掛け、小さく溜め息をつく。
ふと視線を横にずらすとレンの机が見えた。
そういえばレンの机の中って見たことない。
レンはよく私の机を漁っているみたいだけど。(悲しいことにもう慣れた)
気がつくと私はレンの机の前に立ち、引き出しに手をかけていた。

(…どうせ、私のえっちな写真ばっか入ってるんでしょ)

そんな予想をしながら引き出しを開ける。

…ここは楽譜のようだ。
そして次の引き出し。
筆記用具。
次々と開け、最後の引き出しに手をかける。

(…ビンゴ!)

中には大量の写真。
わっかりやすいな、あいつ。


1枚1枚写真を捲る。

うん。
…うんうん。
……うん。



―――なんだ。
案外普通の写真ばかりじゃない。

練習風景だとか、遊んでるときだとか。
うわっ、これ私泣いてるじゃん。
…恥ずかしい!

私はてっきりアイツのことだから、お風呂とか着替えとかの写真が大量に出てくるのかと思っていた。
だから予想と違って見直した。

今のこの気分なら、素直に"好き"っていえるのかも。
変態なんて言ってごめんね。

アイツが戻ってきたら、こっちから積極的にいってあげよう。
―――ふふ。
どんな顔するかな。


写真を元に戻し、私は再びベッドに腰掛けレンの帰りを待つ。
すると1時間もしないうちに、奴は案の定叫びながら部屋に戻ってきた。


「リンたあぁぁぁん!会いたかったよぉ!」


こっちから行動するより先に、ぎゅう〜っと抱きしめられる。
さっきの決心は何だったのだろうか。
仕方がないからレンの背中に手を回す。


「えっ!リンたん今日は素直じゃない」


レンが驚いた顔をする。


「何よ、悪い?」

「いやいやいやいや!全然悪くないっす!俺、今すっげー嬉しい!」


顔を真っ赤にして否定する。
そんな相方を見たら胸がキューッと締め付けられる感覚に陥った。
…今なら素直に好きって言える気がする。


「リンたん」


レンに呼びかけようとすると、先に向こうから声を掛けてきたので私はビクッとしてしまった。


「な、なに…?」


まぁ、言うのはこの話が終わってからにしよう。
ドキドキしながら次の言葉を待つ。


「今日の下着は黄色ストライプなんだね。下もお揃いの持ってたよね。リンたんらしくて可愛いよ」

「へ?」


私は急いで下を向く。
背に回されていたハズのレンの手は、いつの間にかセーラー服を捲り上げていた。


「い、い、いやあぁぁぁ!」


叫び声と共にパチンという平手打ちの音がフォルダ内に木霊する。


前言撤回!
やっぱりこいつは変態だ!
こんな変態を好きだなんて言わなくて良かった!

しばらくするとドタドタとミクちゃんとカイト兄が集まってくる。(メイコ姉が来ないって事は、お酒のんで潰れているみたい)
フォルダ内には布団に潜り込む私と平手打ちされて頬を抑えながらしゃがんでいるレン。
状況をなんとなく理解した2人は私たちをそれぞれ慰め始める。

心配させてごめんね、ミクちゃん。



後日、机の底の板を外した所に隠された大量の裏写真が発見され、レンは二度目の平手打ちをくらうこととなった。




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