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キミとボクとの関係



俺達の通う学校から10分ほど歩くと大きな平屋の建物がある。それが俺たち双子の住む家、地元では超有名な鏡音家だ。
鏡音家の隣にももう一軒、洋風の大きな建物がある。俺たちの幼なじみ、初音ミクの家。彼女は初音財閥のご令嬢で、所謂お金持ちってやつ。
ま、大きな家が二件も並んでいるのだ。
有名にならないワケがない。
ミクは兎も角、俺たちの実家はちょっとアレな方面の道。クラスの連中に素性を知られるのは余り宜しくない。そこで、中学からは現在通っている中高一貫の私立校に入学した。ここなら地元の奴も少なく、余所からくる生徒が多い上、何よりも普通の奴では入れない。
普通の奴、というのは一般家庭という意味で、勉強の出来ではない。そう、イイトコの奴らばかり集まる学校なのだ。だから学内には親から才を引き継いだ者もいればバカなやつもいる。

更にこの学校の凄い所は、創立した人が初音ミクの父親だという所。娘を遠くの学校に行かせるのにも心配だし、近所の学校にも行かせるのも不安だという超心配性の父親が、ミクが生まれたときに計画・実行して今に至る。
地元にこんな好都合な学校があるのもそのためだ。

まぁ、こんな余談はさておき。俺は今、リンと並んで自転車を押している。
リンは駅までバスで行ったようで、帰りは徒歩となった。
後ろに乗せていくよ、と声をかけたのだが「お尻が痛くなるからイヤ」と一蹴されてしまった。車で迎えに来て貰っても良かったのだが、幼少よりそういった躾は厳しくされている。自分のことは自分でやるべきだし、自分の身は自分で護るべきだ、と。
ミクの父親はそれに感銘を受けたようで、学校の設立など環境は整えたものの友人関係や時間の拘束などには余り口うるさく言わないし、SPをつけて出歩くなどもさせない。言ってしまえば俺たちがボディーガードみたいなもんか。


隣をチラリとみる。
辺りはすっかり暗くなっていたが、リンのキラキラと光る金色の髪に灯りは必要ないようだ。お互い無言で歩き続ける。
自転車の車輪の金属音だけが耳に残った。



結局、終始無言のまま家の前まで来てしまった。門をくぐると自転車を車庫に入れにいく。しまうと直ぐに玄関前で待っているリンの元へ駆け寄る。


「入らないの?」

「折角ここまで一緒に帰ってきたんだから一緒に入ろうよ」


…一緒に帰ってきたっていっても終始無言でしたけどね。
そんなことを思いつつもリンの顔を見ると、思わずにやけてしまう自分に気がついた。


「なによ」

「なんでもない。入ろっか!」

「うん」


戸口に手を掛けガラリと開ける。


「「ただいま」」


そう言うと奥から人がぞろぞろと出てきて「おかえりなさい」と返される。俺たちは挨拶もそこそこに自室へ足を運んだ。


 * * *



「ふぅっ」


自室のベッドに、もふりと腰をかけると思わず溜め息が漏れた。


「ねぇ」

「なに?」


ここは自室といってもリンと共用部屋。
当然リンも目の前にいる。


「もうその顔やめてもいいんじゃないかな??」


リンは部屋に着くまで無表情だった。そろそろ俺、怖さで限界なんですけど。


「あ!それもそうだね!」


俺の願いが通じたのかリンはニコッと笑うとそう言った。


「いやぁ、切り替え所が最近分かんなくなってきちゃってさ〜」


ごめんね!、と笑いながら謝ってくる。やっぱりリンの笑顔は可愛い。
リンは俺の隣に来ると腰をかける。


「それにしてもさ〜」


ん?と返事をして隣を見るとムスッとした顔でリンは続けた。


「なんなのよ、あの女!リンの事バカにしちゃってさ!」

「あー…」


放課後の教室内での出来事を思い返す。あれは流石にどうしようかと思った。


「レンもレンよ!ニコニコしちゃってさ!私があんなこと言われても平気なわけ?!」


…そんなの


「平気な訳ないじゃないか」


大体、学校では素っ気ない態度を取ろうと言い始めたのはリンからじゃないか。
俺たちは昔、自他共に認める仲の良い双子だった。小学生の時には、そのことで散々からかわれてきたりした。俺たちはからかわれるのは全然平気だったし、最高学年になると付き合っているのと同然の行為も沢山していた。
しかし中学にあがる頃になると、学校が変わるのを機に関係を知られないよう性格を変えるようになった。そこで明るいリンが作ったキャラが冷酷、ヤンチャだった俺が(自称)爽やか青年。
リンは冷酷、と言い張っていたが根が優しい性格のため、ただの無表情キャラになってしまった。

しかしその表情は俺らの周りの環境のせいもあってか余りにも冷たい物となった。
そこでつけられた名前が氷の女王。
本心かどうかは知らないが、本人は「リンは女王様だって〜!」と喜んでいた。

段々とこんな学校生活には慣れてきたが、未だにリンを悪く言われる事だけが嫌で嫌で仕方がない。あの根の性格のおかげもあり、友人はそれなりに居るのが救いだが、リンの事を良く思わない人も少なくはない。
…今日の女のような感じ。


「俺は、リンが悪く言われるの好きじゃないよ。だからといって今のキャラを変えて欲しくない」

「どうして?」

「…リンは可愛いから、他の男にニコニコしないで欲しいの」


こんなこと言ってしまう自分に恥ずかしさを覚えたが、これは本心だ。

しばらくリンは目をパチクリさせてこっちを見たあと、笑った。


「アハハハ!変なの!」

「ちょっおまっそれはないだろ?!」

「だって〜!」

「…言うんじゃ無かった」

「うそうそ、嬉しいよ。ありがとう」


ニコッと微笑まれると顔が急に熱くなるのが分かった。


「でもね」

「うん?」

「私だってレンが他の女の子と仲良くするのは…ちょっと…イヤ。」


リンはそう言って俯く。
―――なんだ。
いつも友人と離れた後直ぐに元に戻るのに家に着くまであんなんだったのは…


「嫉妬だったのね」

「えっ!違うよ!そうじゃないもん!」


嬉しかったものだからつい、思ったことを口に出してしまった。リンは顔を真っ赤にして反論してくる。


「じゃあなに?」


ちょっと意地悪な質問だったかな?


「…う〜…」

「ちょっとは怒ってるんじゃない?」

「…そうかも」

「怒らせちゃってゴメンね?次からは気をつけるからさ」


リンの顔をじっと見るとボッと真っ赤になる。さっきから怒ったり笑ったりしゅんとなったり…可愛くて仕方がない。


「許してくれない?」


そう聞くと顔を真っ赤にしながらもニコッと笑ってくれた。


「…いいよ。今日のレンはかっこよかったから許す!」

「俺何かしたっけ?」

「みんなの居る前でリンを叩こうとした女の子止めてくれたでしょ?」


ニコニコするリンを見ながら…ああ、そうだったなと思い出す。
しばらく見つめ合った後リンを抱き寄せ口付けると、そのままベッドの中に身を沈めていった。





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