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レン君と鏡音さん




 ホームルームは二十分前に終わったというのに、未だにクラスは賑やかだ。賑やか…とは言っても残っているのは一部の生徒で、半分以上は部活に行ってしまった。教室の外からはちらほらと先輩への挨拶や吹奏楽部のチューニング音などが聞こえてくる。

彼女はまだホームルームが終わらないのか…、鏡音リンは小さく溜め息を吐いた後、パカリとオレンジ色の携帯電話を開き、高等部に通う幼なじみ―初音ミクから連絡が入っていないか確認する。

――着信・メール共に0件。

リンはもう一度小さく溜め息をつくと、広い教室の中でも一番人が密集している窓側の席を見た。
クラスの中でも目立つグループの女子が5人と男子が2人、一番窓側の席に座る男子生徒を囲っている。そのグループの中心人物へと目を向ける。
リンと同じ髪の色、リンと同じ翡翠色の目をした人物…、リンの双子の弟、鏡音レンであった。


――あんなにヘラヘラしちゃって!

リンの心中はあまり…いや、まったく穏やかではなかった。弟であるレンが人気者なのは判るし、姉として誇らしいことではある。しかしそんな気持ちと裏腹に、彼女にとっては面白くないのも事実で。

ちょっとむっとしながらレンの取り巻きグループを見る。


「リンちゃん、どうしたの?」


背後から聞き覚えのある可愛らしい声が聞こえたので、ばっと後ろへ振り向くと


「ミク姉!」


と、声の主の名前を呼んだ。
…リンの実の姉という訳ではないが、家が近所で幼い頃からよく遊んで貰っていたので、リンにとっては姉同然の存在だ。昔からリンはミクのことをミク姉と呼んでいる。


「遅くなってごめんね!日直でなかなか帰れなかったの!」


ペコペコと謝るミクの姿に、美人は何をしても様になるなぁ…と、ついつい感心してしまう。


「別にいいよ、帰ろっか」


リンが気にしていないことを伝えるとミクはニッコリ微笑み「うん」と短く返事をした。

支度をし、ドアに手を掛けようとした時、ミクはハッと思い出したように

「レン君はいいの?」

とリンに尋ねた。すると彼女は別に気にしていないようで不思議そうに首を傾げた。


「話してるからまだ帰らないんじゃないかな?」

「そう?…でも最近暗くなるの早いし…声だけでもかけた方がいいんじゃないかな?」


ミクは昔から心配性だ。多分このまま帰ると家に着くまでミクはソワソワしっぱなしだ、とリンの経験が心に訴えてくる。


「――わかった。一応声かけてくるね。」


そう答えてレンの席へ向かう。


「レン」

彼の名前を呼ぶと、レンだけでなく周りにいた人達まで一斉にリンを見た。


「私たち先帰るけど、レンはどうする?」

「帰るなら俺も帰「ちょっと。」


レンが口を開くとほぼ同時に、上からソプラノが被さる。取り巻きの女の子の声か、と理解するとリンは「なに?」と簡潔に返事をした。


「アンタさぁ、もう中学生なんだから一緒に帰るのとかやめたら?」

「そうそう、レン君めっちゃ迷惑してるじゃん」

「弟離れできないのよね〜。お・ね・え・ちゃ・ん?」

「レン君はこんなに格好良いのになんでお姉さんはこんなんなのかしらね?本当に双子なの?」

「というわけで鏡音さんはあの女と2人で帰ってね〜」


取り巻きの女子が口々に勝手なことを言い出す。レンの方を見ると彼はニコニコ微笑んでいる。


…ほう?
弟離れできないのは私ですか。
レンは私といて迷惑なのか。
確かにレンは最近身長も伸びてきて格好良くなったけど、私は不細工扱いですか。
レンはレン君で私は鏡音さんか。

――ふざけるな!


リンの気持ちは釈然としないままではあったが、この後になんとか答えても面倒くさいだけだ。


「それもそうね。私は先に帰るわ。」


真後ろへ方向をかえ、「行こうか」とミクに声をかける。ミクはオロオロと双方を交互に見た後、リンの後ろに黙ってついてきた。
そしてドアに手を掛け、頭だけ窓の方へくるり。



「またね」



リンはそういってニッコリ微笑んでやると、ぽかんと口を開けている生徒たちに背を向け、ミクと2人で教室を後にした。





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あきゅろす。
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