対体 0909 暫く反応がないのは、承知の上であった。大概意識がないか、ただふて腐れているのか。 まぁ、私だってこの技を使ったのが、これで2回目だ。詳しいことは分からないし知らない。 目を閉じたまま、精神を心に集中させる。 ああ、確かあの時は、もっともっと緊張していた。ただ大好きなベルが壊れていって、途方もなく哀しくて。 私が何か出来たらいいのにと、願うように、縋るように技を使ったのだ。 まさか本当に出来てしまうとは思わなくて、ドキドキした。自分でない誰かが意識に入ってくる感覚は生々しい。鮮明に覚えている。 ただ意識の闇の恐ろしさに目をつむれば、「お嬢様、どうしたの?」と、ベルが言ったのだ。 懐かしい。そして苦しい。 「…名前…?」 10分後、彼はやっと私の意識中で反応を示した。逆憑依、大成功だ。我に返ってくれれば、目的は達成したようなものだ。 さぁ、あと一仕事。 「はいはい、お疲れ」 「…ってめ」 「私だって疲れるんだよ、逆憑依」 「…、」 「話せないまま義兄死んじゃったし」 「や、あれは殺って正解だった」 「どこが。いろいろ吐かせたかったのに」 「怖っ、…つーか早く戻せよ」 ベルがいつも通り文句を言ってくる。そんな事だけなのに、何故か幸せなんだ。 「…はいはい」 お礼くらい言えっつうのと心の中でぼやくと、「はいはいありがとさん」と、小さく声が聞こえた。 「…っあー、気分わりぃ……」 ずきずき痛みだした滅幻眼を押さえつつもう一度唱えれば、ベルは元の意識下へ。 鮫さんはじめ、ウ゛ァリアーはぽかんとしたままだ。野次馬であろう、養成チームまでもが、この光景を見つめて息を呑んでいたようだ。 固唾を呑んで見守るって、きっとこんな感じだ。 「…名前!大丈夫かい」 右目を押さえる私を心配してか、マーモンがやってきて顔を覗き込む。 「大丈夫、それより後片付け、大変だよ…」 見渡せば、無数に飛び散る血と肉塊。それに刺さりまくってるナイフ。つい30分前までの面影は消えうせている。 「…とりあえず、死体は看取り屋に頼む。あとは養成にやらせる、お前らは持ち場に戻れ」 名前は残れ、とボスに言われ、私は他の幹部を見送る。ベルはすれ違い様に、私の髪をぐしゃぐしゃとやっていった。 「…看取り屋って、何ですか」 「簡潔に言えば死体処理班。瀕死の奴にトドメを刺す事もある」 「…へぇ」 数分待たずに、その「看取り屋」がやってきた。私より少し年上の女性のようだった。 . [*前へ][次へ#] |