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対体
0702



「クソ、あんの野郎」

「…今回ばかりは協力しますー名前の為ですのでー」



薄っぺらな意識の中でもがく。
あ、2人が話してる。なに話してんだろ。

さっきの衝撃で心身ともに大打撃を食らった私は、いつの間にやら部屋に戻され、ベッドの中にいた。

意識はあるのに動けないなんて重症だ。



――ああ、鮫さんまで、いる?


「…に、してもだなぁ…一族はもう居ないわけだしなぁ…」

「別に、ヴァリアーから追い出さなくたって別のやり方があるはずですー」

「何だよ、ボス殺んのか」

「「……」」






ふと、床に畳まれた隊服を見つめる。

私を研究材料にするなら、わざわざ隊服なんて支給しなくてもよかったはずだ。


じゃあ、何故、?



回らない頭でそれ以上考えを巡らすのは困難で、私はぐったりと、薄く開けていた目を閉じた。


ボスはきっと、私たちが考えてる以上のことを考えてるんだろう。
ただ研究材料にするなら、私に部屋なんて与えないし。




“それとも滅幻に縋っているんですか”


これは誰に向けられた言葉なのか。

ベルなのか、それともボスなのか。いや、自身に向けて放ったフラン君の言葉だったのか。


滅幻を持つファミリーも、実母もいなくなった今、私は世界に唯一存在する滅幻使いだ。
そんなの考えたことも無かった。


幻術の、必殺技は、滅幻。
幻が消えてしまえば、その世界が無かったことになれば、相手は為す術を失う。

だから、欲しいんだ。

私ではなく、滅幻の血が。




「滅幻を、消滅させればいいんじゃないか」

「…マーモン、何言って、」


あ、マーモンまでいるんだ。


「僕だって、名前の滅幻には素晴らしいものがあると分かってる。でも、それより彼女が苦しむのを見るのは…」

「…分かってらぁ」



消滅…?



「堕王子、あなたを鎮める人間がこの世から消えますがー…」

「…分かってる。んなこと」



「どういう事」

「10年前、堕王子を鎮めたのは、紛れもなくこの方。名前お嬢様なんですー」

「…てめぇがお嬢様とか言うとキモいんだよ」

「はぁ?鎮めたって…あの事かぁ?」

「…ご名答ですー」

「まさかとは思ったけど、本当とはね…」



暫し沈黙が流れた。



「まぁ、今まで名前がいなくても、しばらくすれば直ってたし…」

「てか、あれ気合いでなんとかならないんですかー」

「なんとかなんねぇから今こうなってんだろ」

「…迷惑っちゃ迷惑だよなぁ、こう毎回毎回ぐばぁあってなっちゃぁ――…っいだっ」

「カス鮫覚えとけよ、ししっ」

「でも、問題はそれだけなんですよねー。堕王子が狂気に満ちるのを抑えるだけの効果、」



そうだ、こう言っちゃ悪いけど、それだけの効果だ。



「…違うよ」

「「「……え、」」」

「滅幻が無くなれば、記憶もろとも一緒におさらばなんだ」




虚しく、しかしはっきりと、マーモンの声は部屋に響く。



滅幻と記憶は二対一体。


ツイタイ…。




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あきゅろす。
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