3
カチャ・・・
ドアが控えめな音をたてて開いた。
静寂だった空間にその音は思いの外響いてアーカーはおろか、音の主も少なからず驚いたようだった。
『・・・おにいちゃん・・・?』
恐る恐る、といった様子で声を掛けてきたのは可愛らしい小さな幼女だった。
『メロ、か・・・』
声の主を確認するとアーカーはその頬を盛大に緩めた。
そんな兄の様子に安心したメロは笑顔で駆け寄っていく。
『パパとなにお話してたの?』
くりくりとした大きな碧い瞳で見上げる。
愛しそうに見下ろす青年の瞳の色は、
深い翠だった。
『今日にでも新しい家にお引っ越ししようって話してたんだよ。』
アーカーは優しい手つきでメロを抱き上げるとこれまた優しい声で答えた。
『お引っ越しかあ・・・』
『メロは嫌?』
少し不満そうな声を上げた妹に問う。
『嫌、かなあ』
『なんで?』
『だってずっとこのお家にいたんだもん。』
『寂しい?』
碧い瞳を覗きこみながら。
『う、ん』
小さな頭をなでる。
柔らかな髪が心地いい。
『でもね、』
『みんな一緒だから』
『パパもママもおにいちゃんもおとうとも』
『みんな一緒だから』
『だからさみしくないよ、きっと』
メロは思っていた。
こう言えばきっと兄は嬉しそうに笑って自分を撫でてくれるだろうと。
いつものように。
満面の笑みで。
『そうだ、な』
頭に暖かい重みがかかった。
やっぱり、とメロは嬉しくなって顔をあげた。
優しくて大好きな兄は笑っていた。
美しい翠色の瞳を泣きだしそうに歪めながら。
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