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カランカラン



入り口のドアの鐘がなった。
昼間っからこんな酒屋にくるなんて暇な奴もいたもんだ、と心中嘲笑った。
そこでその暇な奴というカテゴリーに自分も漏れなく分類されてしまうだろうことに気付いてますます笑えた。
今日の自分はなかなか機嫌がいいらしい。
上機嫌ついでに、たった今店内に足を踏み入れた奴の顔を見てやろうと思い、入り口に顔を向けた。


入って来たのはどっかの飲んだくれ親父でもなく、柄の悪い野郎でもなく、


見知った華奢な少年だった。


――否、
“少年"と言えば語弊があるだろう。
正確にいえば少年のフリをした少女である。
もっとも彼女は自分にそのことがバレていないと思っているようだが。(そこがまた滑稽で面白いので教えてやるつもりはさらさら無い)

そんな少女(名前は確かメロ)は自分を追う借金取りだ。
こんな酒場に来たのも一重に自分がいるのを見つけたからであろう。
最近は店先で待ち伏せされているなんてこともざらにある。
どうやら顔だけでなく頭もいいらしい。

本人に自覚はないようだがあれでなかなか容姿が整っている。
いや、なかなかなんてものではないだろう。
目深にかぶった帽子とカツラであろう長い前髪のせいで顔はよく見えないがたまに伺える碧い瞳は自分の興味を十分にそそった。

彼女は知らない。
大抵の借金は自分の弟子につけているのに、彼女の会社の借金だけは自分名義のままであることを。



(もっと追いかけろ)



(引き返せない奥の奥まで)



(お前が俺を捕まえる時、)





(その時は)










(俺がお前を捕まえる時、だ。)











彼女は知らない。





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