嬉しくないと言ったら嘘になる
なんやかんやあったわけだが今日も俺は元気です。
ただし身体的に。
先日妙な3人組にとてつもない量の会計をさせられた。
あんだけバーコード打ったのは後にも先にもあれっきりだろう。
その日の夜はバーコードのピッピッという音が耳にへばりついて眠れなかった。
とんだ労働災害だ。
しかも最後の最後に帽子をかぶった唯一解り合えそうな男の人が意味深なそれでいて厄介な爆弾を投下していった。
俺に興味っておま、なんで!?
平和島静雄とお友達になったら(俺自身は平和島と友情を育んだ覚えはないのだが)漏れ無くそいつの好奇心の対象になっちゃうわけ!?
ふざけるなよ!
別に平和島静雄が嫌いなわけじゃない。
あんなに怒鳴り合いの喧嘩をしたのに変わらず店に来てくれるのだ。
むしろ結構イイ人なんじゃないかと思っている。
けど、それとこれとは別だ。
帽子の人曰くその俺に興味を持っただかいう奴は相当面倒くさい奴らしいじゃないか。
そのことを告げた時の帽子さんの表情を俺は忘れない。
めちゃくちゃ苦いものを食べた時みたいな顔だった。
あーもー憂鬱だ。
会いに来るかも、とまで匂わされてしまったら溜め息の一つや二つ軽く溢れてしまう。
はあ。
と、ここで入店音。
「いらっしゃいませー」
あら噂をすればなんとやら。
入って来たのは今となっては見慣れたバーテン服の彼だった。
「あ、どーもっす」
「ああ、お疲れ」
目が合ったから挨拶してみたら普通に返してくれた。
そこからはいつも通りで、品物を数点手に取るとレジにやってきた。
しかしそのいくつかの品物の中に見慣れないものが。
つうかこれなんで?
間違って持ってきたの?
「…ヘアピン?」
そう。
バーテンさんこと、平和島静雄さんはいつものガムや缶コーヒーに加えて5本1セットの赤いヘアピンを持ってきたのだ。
え、つけるの?
「あの、これヘアピン買うんですか」
「ああ」
「…つけるんですか?」
「俺はつけない」
「あ、彼女とか」
納得した。
なるほど彼女に頼まれたのか。
確かに平和島さん、意外と美形だしな。
彼女いてもおかしくないわ。
「いや、」
「あれ?違うんですか」
じゃあ誰が…?
うーんと俺が唸っていると平和島さんは会計を終えて袋に入れられたばかりのヘアピンを取り出した。
そしておもむろにヘアピンの包装を切ると厚紙からピンを一本外して、
「…え」
「お前前髪長い」
何故か真っ赤なヘアピンは俺の前髪に刺さった。
クリアになった視界にそういや前髪なんて随分長い間切ってなかったなあと思い出す。
「あ、え、これ」
「やるよ。そんな髪じゃ前方不注意ですっ転ぶぞ。」
「あだっ」
意外にも優しい指先が俺の前髪を整える。
軽く撫でて2本目を付け終えるとぶっきらぼうな忠告と共に額を軽く叩かれた。
良い音したなコノヤロー。
「よし。じゃあこれからそれつけてろよ」
「はあ」
「無くしたら予備やるよ」
「…うす」
がさりと袋をもって背を向ける平和島さん。
残りの3本のヘアピンを胸ポケットに入れながら無くしたらときの心配までしてくれている。
意外とマメな人だな。
「あんた、顔見えてた方がいいな。
よく似合ってる。」
ああもう
去り際に笑顔で褒めるとか反則だろ…
無駄にときめいた俺の心臓をどうしてくれるんだ。
危ない、なんて所詮建前。
本当は君の顔をもっとよく見ていたいだけ。
(前髪切るのやめよっかな)
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