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チキンなめんな


あれ?
なんだ、これ。
夢か。
夢だなこれ。
そうだ、夢だ。
だって人間は飛べない。
飛行機だってあれ未だに何で飛んでんだか俺にはわからん。
俺が知っているのはライト兄弟がとにかく頑張ったらしいということぐらいだ。
そんな目一杯頑張ったライト兄弟でさえその身一つで飛ぶことなんて出来なかった。
なのに一般人が空を飛ぶなんてありえないありえない。

ありえないはずなのに

なんだこれ。



恐る恐る開かれた俺の目に映った光景は人間が重力を無視し、宙を舞う姿だった。
しかしそんな非現実的なものをはいそうですかと素直に信じられるほど俺はファンシーな性格ではない。

宙を舞う人間はよく見るとさっきまであの人にヤンキーよろしく絡んみまくっていた男たちのようだ。
そしてさらによく見てみると男たちは皆同じ方向に飛んでいる。
否、飛ばされているのだ。

ふと目についたのは、何か長いものを凄い勢いで振り回す俺がさっきまで身を案じていたバーテン服の彼。
バーテンさんはまるで野球でもしているかのように長い棒で男たちを打ち上げ、吹き飛ばしているのだ。


なんて冷静に状況を説明してみたが俺のチキンハートは既に再起不能だ。
目には夢みたいな現実を映しながらも俺の頭は嘗て無いほどのスピードで状況把握に勤しんでいる。

なにあの人なんであんなことできるのっていうかあの棒街灯だよね俺見たことあるよコンビニ前の歩道にコンクリでしっかりがっちり設置してあったやつでしょ台風の時もびくともしない頼もしい奴のはずなのになんであの人の手の中にいるの?お前はいつからバットになったの?お前の居場所はそこじゃない!戻りなさい!ハウス!!ていうかあの人どんだけ力持ちなの!?力持ちっていう次元じゃないよあれ!同じ人とは思えねえよめっさこええエエエェェェッ!!!!あんな怪力まじ反則だろ!アラレちゃんかあの人!?いや、でも男だからおぼっちゃまくんという方が納得いくような…


と、そこで耳馴れた軽快な音楽。
入店音だ。

ん?
入店?
なら挨拶を。
反射的に口を開く。


「…いらっしゃいませ、ぇ、ああああああああああッ!!!?」


「…?(せあああああ…?)」


い、いらっしゃったあああああ!!
おぼっちゃまくんいらっしゃっりやがったあああああ!!
どうしようあんなん見たらもう接客できねええええ!!

「…タバコありますか?」


「命賭けて接客なんざできるわきゃねえだろがあああああ!!」


「…あの、タバコ…」


「つうか街灯元の位置に戻ってるじゃねえかあああああ!!」


「…タバ…」


「うるせえええ!!当店ではタバコなんざ扱っておりませんんんん!!」


「(ブチ)てめえがうるせええええええ!!タバコレジの後ろの棚にあんじゃねえか!品揃え良いなコノヤロー!!」


「うるせえって言うお前がうるせええええ!!お褒めいただき光栄ですゴルアアアア!!」


「矛盾してるぞざけんなあああああ!!」


「お前がざけんなあああああ!!」



「あのー…会計してもらってもいいですか?」


「「ひっこんでろおおおお!!!!」」




――とまあこんな感じでひとしきり叫び合った後、俺ははっと我にかえった。

あれ、俺まずくない?
なんか凄い怒らせたような気がするんだけど。

しかし気付いた時にはもう遅い。
謝ろうにもバーテンさんはもう店を出てしまっていた。
俺は悟った。

バーテンさんが次に来店したとき。
それが俺の最期だ。




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