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青年Sの場合

突然の告白から数日たった、らしい。
というのもあの日から例の少年から毎日のように激しいラブアタック(という名の嫌がらせだと俺は思っている)を受けているからなんとなく時間の経過を感じえないからだ。
通勤用の愛車(バイク。因みに名前はエリー。)の座席に真っ赤な薔薇が置いてあったのはまだ記憶に新しい。



そんな非日常がありながらも俺はめげずにバイトを続けている。
色んな人間が来て色んな物を買っていく、そんな面白いことを観察できるのだ。
簡単に辞める気はない。



そんなこんなで俺は今日も仕事に励むのだった。







と、まあ言ってはみたが内心涙目な俺。
何故って?
答えは簡単です。
だって怖い人がくるから!
正確に言えばその人はとても怖いということが判明したからだけどな!


いつも缶コーヒーとガム(ブラック)を買っていく常連さん。
服装が服装だからどんな仕事してんだろうな、なんてぼんやり考えてた。
ただそれだけ。

それだけだったのに、なあ。





あれは俺が夜勤の時だったと思う。
ガラス越しに人影が見えた。
その人影が見慣れたバーテン服だったから、ああまたあの人コーヒーとガムを買いに来たんだな、なんて暢気に考えていた。

でもどこか様子がおかしい。
店に背を向けるようにして立つバーテンさん。
その正面には数人の男がいる。
目を凝らしてよく伺ってみるとどうやら揉めているようだ。
しかしガラス越しなために会話までは聞こえない。
だけど男たちの表情からはなんかこう、馬鹿にしたようなからかっているような雰囲気が感じとれる。

――揉めてるっていうか絡まれてる…?

そう判断した俺はもしもの時のことを考えて携帯を掴み、外に出ようとした。

が、そこでガラス越しにバーテンさんと偶然にも目があった。
すると彼はストップ、とでも言うかのように俺に向けて左手をかざしてきた。

反射的に止まってしまった俺はわけがわからず半端な場所に立ち尽くし、おとなしく成り行きを見守る。
しかし何を勘違いしたのか、男たちは俺に向けられたバーテンさんの左手に反応して自らの拳を振り上げたのだ。

――殴られる

そう思って思わず目を瞑った。


やべ、これ救急車か?
携帯どこだ?…あ、すでに持ってた…
というかのんびり考えてる場合じゃなくないか、俺。
きっと一発もらってるよバーテンさん。

が、何かおかしい。
強いて言うならば、空気がおかしい。
なんだ?
寒くないか?


俺はゆっくり目を開けた。



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