バラ撒かれた災い そのA
「千華兄、バスタオル忘れてったよ」
ガチャ
「ぎゃ!」
脱衣場の扉が何の前触れもなく開いた。
ばっ…ばっきゃろー!
びびったぜ弟よ!!
心臓喉まできてたぞこら!
もう片足風呂場に踏み込んでる状態だっつーのに!
ああそうですよ真っ裸ですよ真っ裸!!
申し訳程度の手拭いが逆に俺の羞恥心を煽った。
くそ、
泣くもんか。
「ちょ、な、おま、いくら兄弟だからっていきなり開けるなよ!」
「ごめん…」
俺の若干怒りの混じった訴えにしゅんと反省しだした弟。
思わずギクリとしてしまう。
俯いた拍子に艶々の黒髪が弟の端正な顔にかかった。
その様子が妙に儚さを醸しだしていて俺に罪悪感を起こさせる。
「あ、いやそんな気にしなくても」
…それよりも早く風呂入りたいんだ俺は。
それにかろうじて首筋を掌で隠すことに間に合ったから良かったもののこれ以上長居されたらバレるのも時間の問題だ。
と、内心びくびくしていると俯いていた弟はいつのまにかこちらをじっと見つめていた。
「…ねえ」
「ん?」
「さっきから千華兄、なんか変じゃない?」
「え!?」
あ、馬鹿
そんなあからさまにびっくりしたら怪しいだろ、俺!
いやでも唐突にかつピンポイントで痛いとこ突かれたんだから仕方ない。
素直過ぎる性分が哀しい。
「そう、か?」
「なんかそわそわしてて落ち着きがない」
「…気のせいじゃないか?」
「俺が千華兄を見誤るなんてあり得ないよ。」
「なにその無駄な自信」
先程とは打って変わって誇らしげな表情の我が弟。
こうなった時のこいつはほとほと面倒だ。
絶対に譲らないからな。
こんなに近いところ(むしろ片足は入ってる)にある風呂が途方もなく遠く感じる。
「…」
「…」
無言で見詰め合う俺たち。
方や産まれたままの無防備な姿であるということを忘れないでいてほしい。
このままはりつめた空気が自然消滅するのを待とうと思っていると
ああ、うん
まあ予想しなかったわけじゃないんだけどさ
ガチャ
「千華ーシャンプーもうなかったからこれ新しいやつ…って何してんだ?」
ついに
兄さん降臨。
俺は更なる状況悪化の予感に内心頭を抱えた。
「こら千華、裸でそんなとこにいたら風邪ひくだろう。…おい愚弟、てめえもこんなとこにいて何してやがんだコラ。千華がすっ裸なのがわからねえのか」
「…あ?あんたにゃ関係ねーだろ。黙っててくんない?うざいから」
「んだとこら上等だてめえ表出やがれ」
「その言葉そっくりそのまま返すぜクソ兄貴」
ああもうここでおっ始めるのだけは頼むからやめて欲しいというのに。
何度も言うが俺は、全裸だ。
身を守る術がわからない。
「あーもーやめろよ!また風呂場がふっ飛んだらどうするんだ!」
咄嗟に二人の腕を掴み引っ張る。
額をくっつけて睨み合う美形二人は壮観だが今はそんなこと言ってる場合じゃあないのだ。
なんかもう、寒い。
ちなみに腰にはちゃんと手拭いを巻き付けてあるから安心してくれ。
そうしてなんとか二人の動きを止めて安心していると今度は両側から痛いくらいの視線を感じた。
はて、と思い内心首を傾げる。
そう。
首を、傾げる
首を。
「あ」
ハッとして急いで首筋に手を当てる。
が、時既に遅し。
バキッ
「…千華…その首の、それ…何…?」
ドスッ
「……千華兄…説明、してくれるよね?」
「あ、あ、」
冷や汗が背中を伝い落ちた。
ぶわりと一斉に肌が粟立つ。
二人の横の壁が派手なヒビを入れながらガラリと崩れた。
穴が空いていた。
「…なあ千華、千華ちゃん」
「…誰がそんな巫山戯けた真似をしたのか」
「「教えろ」」
「…は、い…」
可哀想に、阿修羅の如き兄さんと絶対零度の弟を前にした俺はまさに蛇に睨まれた蛙状態で小さく縮こまるしかなかったのだった。
ちなみにその後風呂場は見事崩壊。
またしても銭湯通いが決定した俺が顔馴染みの番頭さんに心底同情されてしまったのは言うまでもない。
※※※※
うざや襲撃事件後のお話はもうちょい続きます。
七瀬家の反応は今回で一段落ついたのでとりあえず次は皆様が大好きな彼らを出せれば良いなあと思っております
aoだけ楽しくってごめんなさい
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