1 真っ黒な三角耳に長いしっぽ。 目の前に眠る子供はどうやらただのちみっこではなさそうだ。 先ほどパチンコで珍しく勝って雨の降る中鼻歌混じりに帰路についていた。 傘越しに何気なく道を眺めていると違和感。 よくよく見るとそれは赤い足跡だった。 最初はペンキか何かを溢したんだろうと歯牙にもかけなかったがその赤にはかなり見覚えがある。 気付いたら放ってなんておけなかった。 小さな足跡を追うと、紫陽花の咲く茂みに辿り着いた。 誰もいない。 しかし足跡はここで止まっている。 ふむと唸ってとりあえず辺りを見回す。 すると微かに気配があることに気付いた。 がさりと紫陽花を掻き分ける。 と、 「…ネコ?」 そこには一匹のネコがいた。 黒い耳、黒いしっぽ。 本来水を弾くであろう毛皮は長い間雨ざらしになっていたからか力無く垂れている。 紛れもない。 ネコだ。 「…ぅ…」 ハッと我に帰る。 苦し気に唸ったネコを急いで、しかしなるべく優しく抱き上げた。 全身びしょ濡れなネコは寒そうにプルプル震えている。 小さな裸の足は血が滲んでいて辿り着いたこの場所が間違いではないことを示していた。 このネコに何があったかは知らないが、取り敢えず暖めてやらなければ。 俺はネコを抱えたまま足早にその場から離れた。 * [次へ#] |