2 結果から言えば障害物競走は散々だった。 平均台からは見事落下、ネットくぐりではネットが絡まり、まるで捕獲された動物のような有り様で観衆を笑わせた。 だから嫌なんだ!とメロは内心うんざりである。 しかしゆっくりうんざりしている暇なんてない。 借り物競走だ。 メロにとって借り物競走が午後の部のラストである。 せめて障害物競走の二の舞は避けたい。 とりあえず普通に、穏便にことを済ませたい、とメロは思うのだった。 ―――――――― 「位置について。 ヨーイ…」 パァン!!と小気味良い音とともに一斉に走り出す生徒たち。 我先にと借り物の書かれた二つ折りの紙を目指す。 紙を開いた生徒たちのリアクションは様々で、軽い足取りで客席に向かうもの、うちひしがれた表情でその場から動けなくなってしまったものなど見ていて飽きない。 ただそれが自分となれば話は別だ。 今メロに出来ることはましなものでありますように、と願うことだけ。 「(シャーペンとかなら簡単そうでいいんだけどなあ…)」 まあどんなに祈ってもあとは運次第なのだが。 そんなこんなでついにメロの番が回ってきた。 すでに借り物競走を終えた美紀は観客席から声援を送ってきている。 そんな様子を横目に見て、緊張しながら白線にたつ。 狙うは正面にある紙。 どう行けば最短距離なのかとか、周りはどの紙を狙うのだとか考えていると、 パァン!! 突然戦いは始まった。 隣に並んでいた人はもういない。 メロはあまりに集中し過ぎて出だしが遅れてしまったのだ。 巻き返そうと必死に走るも狙った紙は既に無い。 最後に残った紙を恐る恐る手に取り、急がなくてはとわかっていながらもゆっくりと開いた。 出てきた文字は 学 ラ ン この学校の制服はセーラー服と学ランだ。 来神学園に通う男子生徒なら学ランは必ず持っているものである。 だがしかし。 But。 今日は体育祭だ。 体操服での登校が普通なのだ。 したがってメロの切望する学ランは 「あるわけないよッ!!」 そうなのだ。 立ち尽くすメロ。 因みにこの借り物競走は途中棄権が不可能だ。 どんなに時間がかかっても必ず指示された物を借りて来なければならないのである。 「(でも学ランを体育祭に持ってくる人なんて…)」 そう思って力無く周囲を見渡すメロ。 すると観衆に紛れて黒い影が。 まさか、と思いつつも目を凝らしてじっと見詰めてみる。 学ランだった。 そう判断するとメロは慌てて走り出した。 勿論転ぶなんてことが無いように細心の注意を払って、だ。 * [*前へ][次へ#] |