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狼と私



クリスマスの記憶なんて無かった。
昔からクリスマスは普段通り。
ラジオから流れるみんなの声をただ聞くことしか出来なかった。


でも今年は――今年は当たり前の様に雀呂と過ごす。
その事実が暖かくて、どこか恥ずかしかった。


「悪い、遅れた!…待ったか?」


「…うんん、5分しか待ってない」


「…悪いな、寒かっただろう」


「全然……ほら。」


「ぎゃー!冷たっ?!」


もう見慣れてしまった私服姿。
雀呂が現れた瞬間、不安が飛び焦って謝る雀呂の頬に少しだけ背伸びをして手を宛てた。
冷えた手に伝わる暖かな肌。雀呂の大袈裟な叫び声に少し、微笑んだ。


そのまま、普通に昼食を食べて。
クリスマスだからってなにをする訳でもなくただ、浮かれ立つ街を2人で歩いた。


「……多い。」


「クリスマスだからな!」


「やっぱり、私の家でよかったじゃん…」


「ダ、ダメだ!」


「…?」


焦る雀呂にきょとんと首を傾げれば、急に視線を合わせてくれなくなった。
何をしたか解らずに、眉を下げれば私は雀呂の服の裾を掴む。


「…っ!な、なんだ?」


「……別に」


「そ、そうか。なぁ、行きたい所があるんだ。」


「……わかった」


あからさまに動揺する雀呂に悲しくなって下を向いたまま誘導されつつ歩く。雀呂の服の裾を掴んだまま後ろを歩いていたからか、突然止まった雀呂にぶつかった。


「…っぶ」


「あ、悪い」


「……ん、いい。ここ?」


「そうだ!もうちょっと待て…後30秒」


裾から手を離し、雀呂の隣りに立てば連れて来られた並木道を眺める。


「目閉じろ!」


「…?」


不思議に思いながら目を閉じれば、すぐに肩を叩かれる。
ゆっくりと目を開ければ、眩い光が私を包んだ。


「……!」


綺麗に光るイルミネーション。
照れくさそうに笑う雀呂に、外に連れ出したのはこれを見せる為かと理解した。


「綺麗だろ?」


「うん………あ」


「どうした?…あ」


嬉しくて目を細めて、光を眺めていれば頬に触れる柔らかなモノ。
上を見上げれば、ハラハラと舞う雪。


「雀呂、雪…!」


「おぅ!雪だな!」


手を伸ばして触れる雪に自然と口許が綻んだ。


「なぁ、」


「なに?」


「クリスマスプレゼント、だ」


「……!わ、私もある…!」


綺麗にラッピングされた袋に慌てて自分も昨日買った、黒のマフラーを渡す。
開けて見れば雀呂がくれたのは、白の手袋だった。


「お前は自分には無関心だからな!手先からも風邪ひくんだぞ!」


そう言いながら、手袋を嵌めてくれる雀呂の優しさに気付けば景色が歪んでいた。


私の涙に驚く表情も、
慰める様な優しい微笑みも、
乱暴に髪を撫でる手付きも、
貴方の全て、それだけで――


ねぇ、
沢山の幸せをありがとう。


白雪舞歌
(ちなみにその手袋は手編みだからな!)
(………え?)







あきゅろす。
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