平行移動し続ける世界(0003)
逃げ出してなにが解るの。
負けるのが怖いの?
勝ち続けても意味は無いのに。
ねぇ、なんで?
なんでそんなに、
必死に生にしがみついてるの?
「……煩いよ、」
パチン、と渇いた音がして音を認識すればジクジクと痛み出した頬に殴られたのだと解った。
頬を押さえる前に腕を押さえ付けられ押し倒される。冷たい床に身体を倒されれば痛さから顔を歪めながらも抵抗しようと身を捩れば鳩尾に蹴りが入った。
息が詰まる。悲しくないのに視界が涙で揺らいだ。
「ねぇ、教えてよ」
「あ、ぐ…っ」
痛さから身体を震わせていれば烏哭さんは私の髪を掴み顔を上げさせた。
視線が合う。冷たい視線。嗚呼、そんな顔をさせたい訳じゃないのに。
「生きてるってどういう事?」
「真実は、痛みだけでしょ」
「あぁ、でも君は痛いの好きだから解らないかな。」
矢継ぎ早に問われる言葉。答える前にまた頬を殴られた。不意打ちで舌を噛む。口内に広がるのは錆の味。
嗚呼、きっと私は彼の不安に触れてしまったのだ。その証拠に腕を拘束している手が震えている。
「…泣、かないで…っ」
「余裕だね、泣いてなんか無いよ」
そう言ってまた腕を振り上げた彼の緩んだ拘束をふり解き抱き付いた。
止まる身体。途端に先程より震えが伝わる。震えてるのはどちらだろう。彼の衣服に染付く私の涙と私の肩を濡らす水滴に気付かない振りをして、彼は私の身体を抱き締めた。
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