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それはとても簡単なこと


「ねぇ、健一さん」


PCに向かってカタカタとデータを打ち込んでいく僕に後ろから声が掛かる。
今忙しいんだけど。
そう言ってしまえば簡単だけれどあまりにも切羽詰った声だったから後ろを振り向いた。


「ん、なにかな?」


「健一さんにお願いがあるの、」


「へぇ…珍しいね、君からそんな事言うの。聞いてあげるから言ってごらん?」


あまりに言い辛そうで放っておけばそのまま黙ってしまいそうだから優しく促せばやっとの事で君は小さく口を開いた。


「健一さんはね、私の事好きなのでしょう?」


「…今はね」


「そう、今は。今は私の事を好いてくれて私が求めれば健一さんは私を愛してくれるし身体を重ねてくれるわ。でもね今という時は永遠に続くはずは無いの、それは健一さんが一番知っている筈ね。」


今という時間。
そんなものが永遠に続かないなど今時の小学生でも知っている。


「そうだね。」


「だからね、その今を過ぎていつか健一さんが私の事を嫌いになったら――私を殺してくれないかしら?」


「…」


これはちょっと吃驚。
黙っていたら、君はちらりとも此方を見ずに構わずに続けた。


「健一さんに愛されていない私なんて想像できないし、そんな私はいらないわ。ねぇ、健一さんお願いできる、かしら?」


「…君、何か勘違いしてない?」


「……そうね。思い違いをしていたかもしれないわ。健一さんはそんなに優しくないものね。嫌いになったらきっと私をおいてどこかへ去っていくに決まっているわ。気ままで我侭で何を考えているか全く読み取れない貴方だもの。全く不愉快極まりない存在だけれどなんど貴方なんて好きになってしまったのかしらね。嗚呼、忌々しい、愛してるわクソ鴉。」


酷い言われようなんだけど。
さっきから君は僕と目をあわせようとしない。
そっぽ向いた横顔をみればどうやら泣いているようだった。


「…そういう事じゃないんだけど?」


「…じゃあ、どういう事なのかしら?」


あはは、涙声。何で泣いているんだろうね。僕の所為だとは解っているのだけれど。椅子を反転させておいでと両手を広げたら素直にこちらに来る君を優しく包んだ。肩、震えてる。泣き止ませるつもりが余計泣かせてしまったみたいだ。


「僕が君を嫌いになることは無いよ、でも飽きたら終わり。君に関心を抱かないし愛してなんてあげない。いらない玩具は処分しないとね。だから頼まれなくても君を殺すのは僕だし、君に触れていいのも僕だけ。君は僕のものなんだから。」


そう言ったら、君は涙を浮かべたまま微笑を浮かべた。
うん、やっぱり君は泣き顔が一番可愛い。






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