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そと【外】


例えば、私に与えられたパソコンの液晶画面。

教授が使うものに比べれば小さなデスクトップ。

青い空に、気球が飛んでいた。

画質のいい画像だった。
1600×1200に切り取られた横長の長方形。

そんな【画像】が私にとっての【外】。








「これが、【外】」

「That's right, なかなかの賑わいだろ?」


奥州。

町は、異国のもので溢れていた。


この景色をどのように保存しよか。


「動画で記録します。歩きましょう」


データの容量が大きくなるが、そうした方がいいと思った。

跳ねるような気持ちはまだ続いている。

この気持ちはあまりよくないものかも知れない。
合理的な思考を失なっている自分に気付く。


「Ah? shopは見ねえのか」

「町並みが先です」


録画を開始する。
録画可能時間は60秒。

私と伊達政宗は無言で歩く。
町には活気があり、人は笑顔で往来を行く。
食事処からもれる香りも様々だ。
店には輸入品と思われる品が並び、独特な雰囲気を醸し出す。
治水もしっかりしている。

【井戸】、【甘味処】、【卸問屋】。
私が知っている名称のものがあった。

大通りの突き当たりには、【呉服屋】もある。




ーー60秒は瞬く間に過ぎた。



「呉服屋がありますね」


保存が完了してから、私は伊達政宗に質問を始めた。


「Do you want Kimono? 」

「いいえ」


ただ、彼女を思い出しただけだった。
彼女を思い出すと、また不思議な気分になる。

彼女から貰った着物、硬貨。

記録しなければならないことがまだある。


「伊達政宗、私は今、いくら持っていますか?」

「Ah? 何をだ?」


懐に入れていた巾着を取り出す。
硬貨の模様から判断して、私が所持している硬貨は一種類だ。

その中の一枚を取り出し、伊達政宗に見せた。


「……これは一枚で一両だ」

「ありがとうございます」


硬貨について、記録できた。

巾着の中に視線を落とす。
私は彼女から合計十両貰ったようだ。

画像保存を行う。
現代には残っていない硬貨だ。
先ほどの伊達政宗の説明も一緒に保存した。



「お前…金の勘定もできねぇのか?」


話しかけられて、私は顔を上げた。


「私が記憶した硬貨と、ここの硬貨は違うようです」

「どこで覚えたんだ?」

「私が完成したときにはもう記憶されていました」

「……」


まただ。
私と彼の会話は私で終わる。


「伊達政宗、なぜだまってしまうのですか」


尋ねる。私はどこで失敗しているのか。


「お前が妙なことを言うからだ」

「失礼しました。以後気を付けます」


彼は眉をひそめる。


彼が、そんな表情をする理由を、
私は知らない。





そと【外】

屋外
表面
囲った範囲以外の部分
属する社会以外の所


本当に、ここは私の知らない所。
わからないこと、新しいことが、沢山ある。



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あきゅろす。
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