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さび【寂】


「まず一つめ」


伊達政宗が指を立てる。


「お前は忍の気配が読めるのか?」


【忍】
【猿飛佐助】は【忍】だ。【忍】は気配が消せる。
私には気配があってもなくてもわからないが。


「私は気配は読めません」


伊達政宗が目を細めた。

ただ、と私は言葉を続けた。


「温度で熱源の位置を特定できます。そして、生体反応を確かめることによって、【生物】と判断します」


「Ah, 質問の仕方を変える。お前はどうやって奴に気付いた?」

「私は気配ではなく温度で【猿飛佐助】に気付きました」


伊達政宗は顎の下に手をあてた。
片倉小十郎も眉間に皺を寄せる。

また鳥の鳴き声が、部屋に響いた。
その後、水の独特な音。
誰かが水を汲んだようだ。

沈黙を破るように、伊達政宗が指で床を弾いた。
天井を見て、私を見た。


「何人いるか、わかるか?」

「三人います」

「……」


また流れる沈黙。
それでも【静寂】は訪れない。
部屋の近くを足早に歩く足音が響いた。


「天井にいるのは敵ですか」


さきほど彼が言ったことを思い出す。


「NO」

「伊達の忍だ。政宗様についている」

「成る程」


伊達政宗は片倉小十郎と目を合わせ、話し掛けた。


「んなことできるもんなのか?」

「私にはわかりません」


そうか、と伊達政宗は手を振った。


「名無し、どうしてお前が妙な能力を持ってるのかってことはひとまずおいとく」


伊達政宗は真剣な目で私を見た。


「けどな、お前はそれで猿に気付いた。あいつのことだ、お前を調べにくるだろう」

「私を調べにですか」

「あぁ。最悪、殺しにくるかもしれねぇ」

「重要ユニットを欠損した場合の修理は困難です」

「……とにかく、今日の宴で顔見せだ。そしたら、襲われても助けが来る」

「伊達軍の人が助けに」

「仲間は絶対に見捨てねぇ。大丈夫だ。護衛もつける。だが、お前のその妙な能力のことは伏せておけ」


【護衛】
どうやら【猿飛佐助】は危険な人物のようだ。


「伊達政宗、この部屋の防音設備は整っていません。従って、先ほど話したことは誰かに聞かれていてもおかしくありません」

「伊達の中に情報を漏らすやつはいねぇよ。だが、部屋は移れ。ここより奥に部屋を用意させる」

「わかりました」

「ただし、お前にはこれから伊達の一員として働いてもらう」

「それはできません。私は貴方のことを調べ終わったら、次へ行きます」


こういう話をすると、決まって片倉小十郎が私を怒気もあらわに睨みつけ、会話に入ってくるが、今日はただ私を見ているだけだった。

伊達政宗は喉の奥で笑ったあと、言った。


「なぁに、俺に忠誠を誓えとかは言わねぇ。何の為か知らねぇが、俺のことを調べるんだろ?その間だけ働けばいい」

「私は体が破損するようなことは極力避けなければなりません」

「お前のその、人を見つける能力を使うだけだ。安心しろ、妙な能力だが、ものは使いようだ。働かざる者食うべからずってな」


【伊達政宗】の記録を作成する為には、ここで働かなければならないということのようだ。
歴史を変えるようなことだけはしてはならない。
だが、彼の話からして、見張りの仕事の可能性が高い。

しかも、【伊達政宗】の記録を作成している間だけ働くだけだ。



問題無し。と私は判断した。


「わかりました」

「OK!」



伊達政宗は後ろを振り返った。


「おい小十郎」

「もう来るでしょう」



先ほどまでの雰囲気を払拭するかのように、伊達政宗は笑って私を見た。


「さぁて、名無し。次の質問だ」


先ほど聞こえた足音が、部屋の前で止まった。


「着飾るのは、好きか?」


片倉小十郎が丁寧に開けた障子の向こうに、若い女性が座っていた。


「青い着物がいいんじゃねぇか?こいつの髪よりも薄い青だ」


女性が頭を下げる。


「名無し、今夜の宴を楽しみにしてるぜ」


伊達政宗は、二つめの質問の答えをきかずに、部屋から出ていってしまった。





さび【寂】

ひっそりとしてさみしい
古びて落ち着いた趣のあるさま
低く太い声
渋みのある声



声、が聞こえた。
私に語り掛ける声が。




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あきゅろす。
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